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赤ずきんの檻 4

 新聞配達のバイトで毎朝通る道を歩いて行く。  降り止みそうで降りやまない細い雨は、母からパーカーを借りた必要を感じさせないほどだ。  それでも道の水はけの悪い部分には水溜りが出来、靴を濡らさないためにそれを飛び越えなくてはいけなかった。 「―――あか君、だね?」  低く響く声は大人の男の物で、大人の男にあまりいい印象を持っていないあかは咄嗟に体を縮込めた。 「あ、の…」  ぱしゃりと水溜りを踏みつけながら、いかにもと言った黒塗りの車が滑らかな動きであかの傍らに停車する。  開いていた後部座席の窓から、一人の男の顔が見えた。  にこやかな笑みを浮かべていても、明らかにその男の雰囲気は一般人のそれとは違う。  母親の今の男の雰囲気と似通ったソレに、一瞬で相手がナニであるかが分かった。 「私はおお…「大場組の人ですか?」  言葉が被り、あかに言葉を遮られた男は一瞬眉間に皺を寄せたが、気を取り直したようににこやかな笑みを見せた。 「羽田の所に行くんだろう?話は聞いている」 「あの、じゃあ、これ」  雨の中だと言うのに水滴を弾いて艶やかに黒く光る車に近寄り難さを感じたが、ヤクザの組事務所に入る事を思えばここで手渡してしまった方が気も楽と言うもので、あかはさっと封筒をそちらへと差し出す。 「ああ、約束の物だね」  頷いてから男の差し出した手に封筒を渡そうとした時、封筒を受け取るのだとばかり思っていた手があかの手首を掴んできた。 「あっ」  太い指だ。  男らしい、ごつごつとした、浅黒い、指。  力強くて揺るがないそれは、あかの細く貧弱な手とは正反対だ。 「雨も降っている。乗りたまえ」 「や、……あの、これを渡すだけなんで。服も濡れているから車を汚し…」 「借用書を渡そう、でなければまたその借金を払う事になるぞ?」  ひゅっと息が詰まった。  やっと借金から抜け出せると言うのに、そんなことになれば首を括るしかないからだ。 「借用書は事務所にある。さぁ、乗りたまえ」  再度の促しにあかは戸惑ったものの、腕を掴む手はこのままでは緩む気配はなく、仕方なく頷いて男の車へと乗り込むこととなった。

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