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赤ずきんの檻 9
「おぉー……が ?」
鼻を鳴らしてソコに擦り寄ると僅かな反応が返り、それが嬉しくてあかは猫のように頬を擦り付ける。
「おおがみ、 」
染み込ませるように言われた言葉に、ぐずぐずだったあかの思考が僅かに戻った。
おおがみ……?
「 おお、ば?」
乱暴に頭を撫ぜられれば霧散してしまいそうな思考を撚って紡ぐ。
「ち、が 」
いやいやと小さな子供のように首を振り、頬に添えられていた手から逃げようとした。けれどそんな弱い抵抗でどうにかなるほど、大神の手はやわではなかった。
離れようとした頬を掴まれ、内臓がひやりと凍るような気がして、あかは緩く首を振る。
「 大場 組の人じゃ」
ひ と喉に声が貼り付いた。
羽田のところに行く確認はされたが、この男自身が大場組の人間だと名乗ったことがないことに、ぼんやりとした頭で行きついたからだった。
話は聞いていると言ったけれど、誰から?
どんな話を聞いているかも聞かなかった。
借用書もそれが誰の物かは言ってはいない。
名乗りを邪魔したのはあか自身で、
「 オ レ、だ、れと間違えたの?」
緩く掴まれた頬が引っ張られ、唇に隙間が空いた。
ふぅーとそこに煙草を吹き付けられ、きつい匂いに呼吸がうまくできずに噎せた。
「 あなた、 だぁれ 」
息を吸う音が細く長く悲鳴のように聞こえる。
煙が触れた部分が灼けそうで、あかは床に転がり回って逃げようとしたが、あかの抵抗は大神にとっては細やかすぎるものだったらしく、その革靴の間から逃げることはできなかった。
ふぅー……と吐かれた煙が降りてくる。
「 ぃ、あ ぁ」
体の熱を逃したくて服を引っ張って剥ごうとするが、ファスナーを降ろすと言う簡単な動作ができなくてがむしゃらに引っ掻くしかできない。
ジーパンのザラザラした感触が肌に触れる厭わしさに、消えるような悲鳴を上げてそれを引きずり下ろす。
ひやりとした床の感触は一瞬だけ熱を奪ってはくれたけれど、それだけで救いにはならない。
「ぁ、つ 」
熱い箇所は分かっている。
けれどあかはソコに生活上必要があって触れたことしかなく、ナニかに突き動かされて、快楽のために触れるなんて受け入れられなかった。
縋るように床に股間を押し付けてやると、得も言われぬ痺れが腹を駆け上がってくる。
麻痺した頭が、気持ちいいと呟いた。
「ひ、 腰、 う ごいちゃ 」
卑猥に体をくねらせる度にぴちゃりと水音が耳を打つ。自分の家でない、到底そんなことをしていい場所ではないと分かっているはずなのに、あかは腰の動きを止められなかった。
「 ぃ、ぃ ん 」
気持ちいい と繰り返す。
冷たい床にソコを擦り付ける行為が堪らなく気持ち良くて。
けれど……
自慰は所詮、自慰でしかなく。
「きも ち ゃ、コレ 」
自分の下着から漏れ出した物でヌルつく床は、気持ちは良かったがそれ以上の善さは与えてはくれず、救いになるかと思ったそれはただただ熱を重ねさせるだけだった。
「ぃや ぁ 熱 ぃ、助け、て 」
自分を見下ろしながら余裕たっぷりに笑い、紫煙を吐き出す大神に視線を向ける。
全く知らない、男。
その筋に生きる、人間。
あかの嫌いな、生き物。
けれど、身を焼く熱と、腹の奥の切なさがそんな理性を突き崩す。
「俺の下にくるなら、楽にしてやる」
あの笑みは、人が堕ちてくるのを待つ笑いだと、あかは知っていた。
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