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雪虫 落ち穂拾い的な 63p
せめて一緒に夕飯を と誘うのを止められた。
「忙しい方だから」
直江に割り込まれてしまうと、もうそれ以上何も言えなくて……
ただでさえ忙しいのに、オレやしずる達のために時間を作ってくれているのを知っているから、これ以上無理も言えなくて。
でも、寂しいし、昼間どうしてあんなに距離が近かったのかも、聞けていない。
妬いても仕方のないヤキモチだけれど……
「あの、気をつけて」
「ああ」
ほんの少し前まではその後ろに付いて回っていたせいか、取り残されるのがやけに辛くて、思わずじぃっと見つめてしまう。
「車を回すように言ってきます」
先に玄関を出た直江を見送って、大神の背中に寄り添ってみた。
広い背中に頭を預けて、そっと手を添えると筋肉の手触りと、熱い体温に触れる。
「どうした」
「 」
寂しい と、言うとどうしてくれるのだろうか?
一緒に行きたい と、言ったら連れて行ってくれるだろうか?
「 体温 を、感じてました」
人は唇が一番熱に敏感だと聞いたことがある。
それを信じて、その背に口付ける。
「そうか」
大きな手が、相変わらず攫うように抱きしめてくる。
最初は怖くて仕方のなかったこの腕の中に攫われると、いつの間にか安心するようになって……
力一杯抱きしめ返して、全然届かないけれど伸び上がって大神にキスをねだった。
そうすれば大きな体を屈ませて、この人はちゃんとオレに応えてくれる。
抱きしめられて少し足が浮くのも、
食われそうなキスも、
少しざらりとした舌で貪られるのも、
嬉しくて、
「 っ 」
離そうとした手に縋って小さく嫌がって見せるも、首を縦に振ることがないのはわかっている。
「 あか」
もう久しく呼ばれていない名で呼ばれて、耳がゾクゾクと震える。
「 ────」
頬を掠めるように熱い唇が通って、小さな声で言葉を告げた。
────
「え えぇ」
かぁっと顔に血が集まる。
恥ずかしさに大神を見れずに、パチパチと瞬きをして俯いた。
耳を打つ柔らかい言葉が、嬉しくて。
「お前はすぐに羨ましがるな」
「や あれは 」
男前だけれど厳しい顔が少しだけ、穏やかさを見せて……
更に離れ難くなった……なんてことを言うと困らせてしまうから。
「いってらっしゃい。気をつけて」
精一杯の笑顔で送り出した。
END.
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