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花はいっぱい 22
「ダメ! 止めてっ っ、ぅ」
「なに?顔見せてよ」
「無理っ」
叫ぶために体を起こしたけれど、それですら皮膚が擦れてざわざわとした感触が背中を駆け上がる。
拳を作った手に汗が流れて、そのくすぐったさに震えた。
「ン んっ 」
「かおる?」
幼い風な呼びかけにくらりと目が回ってカーテンを掴んだ。
喜蝶の声が耳をくすぐるような気がして、嫌々をするように首を振る。
「い ま、ヒートで 」
「ちょっと話するくらいできるだろ?」
喜蝶は、本当に何を言っているんだろう……?
吐き出しても吐き出しても熱くて、体の奥にナニかが欲しくて泣いて、その溢れる涙にすら感じてしまって。
苦しくて、辛い、のに!
「む、り って、言った っ」
自分の出した精液で汚れた手を窓に叩きつけると、掌とガラスの間でびちゃと滴が飛び散った。
「 は ァ、き ちょ 」
ガラスに残る筋をなぞるように喜蝶の指先が動いた。
ひどくゆっくりと、ねっとりと垂れていくソレを指が追いかける。
「かおる、開けて」
少し問いかけるような物言いは愉快そうに歪んだ唇から出ていて、促されるように窓に鍵に手をかけた。
「っ だめ 」
震える手を握り込んで、こちらを覗き込む喜蝶に首を振って見せた。
開けたら?
喜蝶に縋り付いてしまうかもしれない。
自分じゃ触るのが怖いソコに触れてくれと、何も考えれずにただ ただ 牝として扱って欲しいと懇願してしまう。
それでまた、運命じゃないからって相手にされなくなる。
そんなのは、いやだ!
「開けて。 ね?」
爪がカツカツとガラスを叩いてオレの下半身を指差した。
「ぁ あ……」
さっき吐き出したはずなのに、はしたなく立ち上がったソコに目がいった。薄っすらと笑みが浮かんだ唇を舐めて、喜蝶がオレを見下ろしている。
整った横顔にガラスでできたような両目。
光が反射してますます作り物めいた瞳に、汗とどろどろとしたモノで汚れたオレが映って……
汚れたシーツを母に洗わせるのは流石に気が引けて、動けるようになったら洗うからと絶対に渡さなかった。
釈然としない様子の母を説得してくれたのは父で、今回の発情期の酷さに責任を感じているようだった。
「 喜蝶くん、今日も来てくれてるけど?」
「まだ、会えないって言って」
あの夜、ギリギリの理性で鍵を開けなかったオレに業を煮やした喜蝶は、玄関から来るようになった。幸いそうやって来られると、発情期を理由に母が断ってくれるから楽なのだけれど、いつかは母に本当の理由を聞かれそうで怖かったりもして。
「また来るって」
「 うん」
さすがに大人には強く出れないのか、窓からこっそり見ると不機嫌な足取りで帰っていく姿が見れた。
ちくん と胸が痛まない訳じゃない。
もしあの時窓を開けていたら?
喜蝶はオレにナニをしたんだろう?
もぞもぞと膝を抱えて体を縮こめる。
「ヒートが酷くなったって、ベータはベータなのに 」
ぽとんと膝に落ちて出来たシミを見詰めて、膝を抱える手に力を込めた。
母と一緒にガラスと木でできた扉を潜り、首を傾げるようにしてカウンターを覗き込むと眼鏡をかけた顔がオレを見て、ぱぁっと明るくなった。
「元気になったんだね!」
いそいそとカウンターを回ってこちらに足早に近づき、頭から爪先まで見てほっとしたようだ。
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