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花はいっぱい 24
発情期が突然酷くなった今回のことで、いつも薬を貰っている病院から、もう少し大きい所で検査してもらった方がいいと紹介状を書いて貰った。
大袈裟かな とは思うものの、あの期間のことを思い出すと藁にも縋りたくて、付き添いで来てくれる母には申し訳なかったが、検査を受けることにした。
身長体重を測ったり、血を採ったり、脇に綿を挟んだり……正直よく分からない検査もあって、一つ終わる毎にあっちですこっちですと行ったり来たりして、ここが最後ですと言われる頃にはぐったりだった。
「待って、検査して、また待ってって、大変だわね」
そう言って母は暑いとパタパタと手で顔を扇ぐ。
オレはまだ検査に入るけど、お母さんは付き添いだからずっと待つばかりで、そっちの方が大変そうだ。
「あの喫茶店、いつ見つけたの?」
「ヒートになる前に、六華に連れて行って貰ったの。ミックスジュースが美味しかったよ、お母さんも好きでしょ?」
ニコっと笑って、また行きましょうねと返事をしている途中で、診察室から声が掛かった。
診察室番号と医者の名前を見てから、失礼しますと中に入る。
「よろしくお願いします」
「はい、こんにちは」
パソコンにカタカタと打ち込んでから医者はこちらを向いた。
『瀬能』と書かれた名札を見て、それから顔を見た。
穏やかそうで、怖くない。
それだけで安心する。
「今日はー……抑制剤が合わなくなったって?」
「はい、今回のヒートがすっごくキツかったんです、今までそんなことはなかったし、薬を飲んでも効かないし……」
白いものの目立つ髪をかき上げて瀬能は、んー……と唸った。
紹介状に目を通し、電話で何事か言いつけると、今度はパソコンを操作し始める。
「聞きますよ。生まれた時の簡易検査でオメガと診断が下ったと?その後、オメガ因子持ちのベータと結果が出たんですね?」
自分が頷いても良かったが、傍に座る母のちらりと視線を送ると、オレの代わりに頷いてくれた。
「今まで、この薬で大丈夫だったんだね?」
画面を指差され、その爪の先にある薬の名前を確認して、今度はオレが頷く。
飲み慣れた、黄色くて大きい、ちょっと飲みにくい薬だ。
「大丈夫でした、リズムも安定していましたし」
「副作用は?」
「あー……少し気持ち悪くなる時があったくらいです」
「そうかぁ あ!ちょっと、阿川くんを呼んで!」
思い立ったように瀬能が奥に声を掛けると、看護師が急ぎ足で姿を消した。
「もう一人来る前に説明しておくんだけど、今回のヒートが酷くなったのではなく、酷いはずのヒートがこの薬で抑えられる状態だった です」
説明を理解しようとしたけど、「え?」と母が声を上げてしまった。
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