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落ち穂拾い的な 髭

 まぶたに薄ら入る光で目覚める。  眩しくて反対を向き、腕枕をしてくれている大神さんの胸板へと顔を擦り付けると、起こしてしまったのか小さく呻き声がした。 「  おはようございます?」 「 ああ」  目を開けずにそれだけを言って、オレをぎゅうっと抱き締めてくる。  皮膚の傍で呼吸をすると、大神さんの匂い。  しずるに言わせると、岩の匂いがするって言ってたけど、男らしいオレの好きな匂いだ。  朝のせいか、生え始めた髭がチクチクと肌を刺して、痛いけど気持ちいい…… 「髭 チクチクですね」 「あ?お前は生えないな」 「生えますよ、剃りますもん」  また「あ?」と返事が返る。  大きくて熱い手がもそもそと動いてオレの顔を撫でる。  撫でる。  撫でる。  撫で…… 「  寝ぼけてます?」 「……すべすべだな」 「男っぽくて、髭の生えてる方が好きです」  まだ目は開かないのか、目を閉じたまま「そうか」と返される。  ちょっと伸び上がって頬に擦り寄ると、ざりざりとした感触がくすぐったい。 「ふふ いたーい」  そう言うと、きゅっと眉が寄ってやっと目が開いた。 「痛いならやるな」 「もう一回だけ」  止めない大神さんに、調子に乗ってもう一回擦り寄る。 「 ふ ふふ 」 「物好きめ」 「気持ちいいんですもん」  くすくすと笑うオレに、今度は大神さんが頬を寄せた。  まるで大きな犬の頭突きにでもあったようなどしりとした感触に、耐え切れなくてベッドに倒れ込んだ。 「ああ、確かに気持ちいいな」  せっかく開いた目がまた閉じている!  でも寝ぼけているのか大神さんが擦り寄ってくれるのが嬉しくて、生えかけの髭にくすぐられるのを止めることができなかった。  しずるが怪訝な顔をしてオレの顔をしげしげと見ている。 「なぁ、なんで顔が腫れてんだ?」 「髭が   ちょっと  」 「あー髭剃り痕って痛いよな。保冷剤持ってきてやるよ」  頬擦りし過ぎて腫れ上がったなんて言えないまま、ありがたく保冷剤を受け取った。  明日からはほどほどにしよ…… END.

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