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ひざまずかせてキス 20

 畳まれていない衣服のぶちまけられたそこに呻き声しか出ない。 「上がれって」 「いや。用件はすぐ済む」  こんな部屋に入りたくなくて、促す相良に手を突き出す。 「これを  」  スーツの内ポケットから出した封筒を、オレを引っ張ろうと伸ばしている相良の手に握らせると、感触と厚みで何かを察したのか、へらりとしていた顔が急に真剣みを帯びてオレを睨んだ。  そうすると、大神で慣れているオレでもちょっと背筋を正してしまいたくなるような、そんな迫力がある。 「ある程度まとまった額が入れてある。これでデータを穏便に買い取りたい」  眉間に皺を寄せた相良が、ちらちらとオレの様子を窺いながら封筒の中身を確認して、声には出さずに「一個、二個、三  」と束の数を数えた。  沈黙が落ちて、夜の静寂が耳に痛い。  封筒の中身は、もしかしたら相良の一年分の生活費くらいにはなる金額なのかもしれない。そんな想像を起こさせるほど、相良は封筒の中身を見て動かなかった。 「      はぁ」 「ではデータを」 「いやいやいやいや、渡さないよ?」  はっと正気に戻ったのか、相良は慌てて封筒をオレに押し付け返して、焦ったように奥へと引っ込んでしまった。 「おい」 「ちが  なんで、金なんだよっ」 「声が大きい」 「   っじゃあ中入ってドア閉めろよ」  むっと唇をひん曲げて、相良の表情は拗ねた子供のソレだ。  しかたない とは思うも、ここに足を踏み入れるのか?と思うとげんなりとしてくる。  大神がそう散らかす方ではないせいか、こう言った部屋は未知の世界と言ってもいい。  覚悟の為に溜め息を一つ吐いて、中に入って扉を閉めた。  小さな玄関はオレ一人でも窮屈で、少し動けば壁に肘が当たりそうだ。 「   金とか、なんで 」 「脅しの目的としちゃ当然だろ?」  返された封筒の中身に視線を落とす。このアパートで暮らす人間にとっては多すぎるであろう金額を入れていたはずだ。 「足りなかったか。あと二本、追加しよう」  提示するのに分かりやすくしようと突き出した指二本を睨んで、相良はそっぽを向いてしまう。  ────足りない、と考えていいのだろうか? 「わかった。それでも足りない分は後日持ってくる。それで終いにしてもらいたい」 「だからっ」  握り締めた拳と、合わない視線はどう言う意味なのだろうと考えるが……オレにはその機微がよく分からなかった。  どう返していいのか分からないまま、相良の出方を窺ってはいたが動かないのならば話にならない。 「時間がない。決断してくれ」 「 ────金 」  その言葉を聞いて、もう一度封筒を差し出した。 「    は、要らない」 「は?」 「金は  。金より、 」  手首を掴まれて咄嗟に振り解こうとしたが、次の瞬間には床に引き倒されてしまっていた。 「 ────あんたの、グズグズに泣く顔が見たい」  

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