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ひざまずかせてキス 36

 ぶちりと皮膚が破れる音を聞いても、何をされているか理解するのに酷く時間がかかって、痛みとかそう言った物は全く感じなかった。 「何す  ん らっ」  喉の皮膚が引っ張られているせいか息がまともに吸えず、ひゅう と言葉が滑る。  ミチ……と音を立てて引き裂かれる項に気付いて、全身から嫌な汗が噴き出した。 「やめ   やめろ   」  自分が力も無く弱弱しいと感じたのは、『aristocrat』出て以来初めてだ。  震えて情けない体も、反撃も出来ずただ崩れるしかなくて…… 「やめろ  ぃや ら   、痛い  ぃ  」  肉体の痛みではなく、心が覚えている痛みで鼻の奥が痛んだ。  マウントを取る為に『aristocrat』で行われた様々な事を思い出して、ぐずぐずと鼻が鳴って涙が溢れる。  オレの啜り泣きが聞こえたのか、皮膚から歯の抜けて行く感触がして、相良が戸惑ったように小さく「ごめん  」と呟く。  睨みつけてやろうと思ったのに、そちらに向けた自分の顔は相良が驚くような表情だったらしく、眉を八の字の形にしてもう一度「ごめん  」と繰り返した。  小さな子供の謝罪でももう少しマシだろうと言ってやりたかったのに、嗚咽のせいか喉が詰まって何も言い返せず、相良が持ったままだったタオルを奪い取って首の後ろを押さえた。  そうしてやっと、そこに傷が出来ていて、痛みがあるのだと知る。  一直線ではない、薄い楕円の形の傷の並びが指先に触れて、それが相良の歯型だと理解するのに随分と時間がかかった。 「あ  のさ、そうやって、自分のって主張するんだって  聞いて  」  自分が噛まれる可能性なんて考えた事もなかった。  バース性とは言ってもβだし、噛むくらい心を動かされる人間に出会う気がしなかったから、そして何よりオレが持っているのがα因子だから、噛む事はあっても噛まれる事はないと絶対的な盲信で思っていた。  痛みは言う程ではないのに、どうしてだか物凄くショックを受けている自分に驚く。  噛まれた……?  オレはΩではないし、相良は無性だし、この傷には何の意味もないのに、やけに動悸がする。 「ナオちゃんを、 ナオちゃんは俺の物だって言いたくて  でも、痛かったよな?ごめんな?ごめん」  小さな子供を慰めるように、相良の腕がオレを抱き締めて、自分の非を詫び続ける。 「  いや、  突然でびっくりしただけで   」 「嫌じゃなかった?」 「え?」 「俺に噛まれるの、嫌じゃない?」  力を目一杯込めて抱き締めると苦しくて、それが嫌で身を捩った。相良はそれを「嫌」の肯定と捉えたのか、泣きそうな顔になって両手を広げた。 「ごめ ん  」 「や、違う。噛んだ事は怒ってない!   ただ……驚いたんだ」  そのまま泣きじゃくりそうな雰囲気だった相良が首を傾げ、ゆっくりとオレの首に手を伸ばす。

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