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ひざまずかせてキス 43
指示のあったセーフハウスの一つへ行くと、中が騒がしい。
何事かと駆け込んでみれば、風呂上りらしい大神と、南国の鳥を頭に乗せているかのような髪をしたレヴィと、見た事のない男がリビングで何事かを言い合っていた。
「 っと、お邪魔でしたか」
「いや、ちょうどいい。着替えを」
「はい!」
レヴィは分かるがもう一人は……と、着替えを取りに行きながら横目で盗み見ると、オレを見返してぱちりと綺麗なウィンクを返してきて……
「すがるか?」
「Hello hello hello!」
そう茶目っ気を含ませた表情で手を振ってきた。
以前会った時は女だった。
今はどう見ても男でしかなく……
不思議な生き物だ と言ってしまうのは乱暴か?会う度に外見が変わってはいたが、性別まで変わっているのは初めてだ。
「羽田の方はどうなりましたか?」
あかの一件の時に絡んだ大場の方の人間が消えた と知らされてはいたが……
レヴィとすがるが視線を絡めて何かを確認し合うのは見えたが、オレが聞くのは大神からの言葉だけで十分だ。
「そのままだ。残骸なら見つけた」
その残骸がどこまで原型を留めているか、聞くのは止めておいた方がいいだろうと問い返さなかった。
「ホンット下手っくそ。もっと上手に片付ければいいのに」
すがるはそう言うと面倒そうに髪を括り、机の上に広げられていた書類を纏め始めた。
「とりあえず私達は仮眠するわ。大神もちょっとは寝なさいよ?」
「ああ」
「ほらレヴィ、行くよ」
すがるなりに気を遣ってくれたんだろう。
二人がベッドのある部屋に消えるのを見送ってから、大神に向き直る。
「遅くなって すみませんでした」
「そうだな」
何をしていたのか、なぜ遅れたのか尋ねず、大神は煙草に火をつけないまま椅子に深く凭れ込んで深く息を吐いた。
「ご無事で何よりです」
「お前は無事じゃなさそうだな」
唇の端が歪んで現れる笑みは意地が悪そうに見える。
「気になっていた事は解決したか?」
「 いえ」
きっぱり返すと、そこでやっと興味が出たのかオレの方に視線が向いた。
「もう少し、猶予を下さい」
「それは是の為か?否の為か?」
何を言ったとしても、本心はバレてしまうのかもしれない。
「 自分の心を 決める、ため です」
でもそれが本音。
飾り気を取り払った言葉だった。
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