254 / 665

教えて!先生っ 6

 そこにつけられた複数の噛み痕の事を思い出して…… 「それは十分、傷害足り得ると言う事を分かっていますか?」  入ってきた時の雰囲気の違いに、気まずさを感じて俯いた。  ちょっとさっきまでは「薬飲んではい、おしまい」だと思えていただけに、現実を見ろと示されて、逸らしきれない事実に俯く。  膝の上で握り締めた拳を見詰める以外にオレには出来る事がなくて…… 「同意の上で噛まれたんですか?」 「や ちょっと覚えてないです」 「意識のない状態だったと?」 「あー……酔ってて」 「その酔いが故意ではないと言い切れますか?」  う と言葉に詰まる。  世間知らずの子供ではない、アルコールだけでなく、世の中にはレイプ薬なんて物もあるのは百も承知だ。 「バース性が優れているから人間性が優れていると言うわけではありません。悪戯目的や性奴欲しさに噛むアルファもいます。それから、番の絆の話はよくご存じでしょう?」  発情期の性交中のαから項を噛まれたΩは、そのαの番となる。  番となったΩは、噛んだα以外に匂わなくなる。  そして発情期が来てもその熱は、番のα以外の人間を受け入れず、番のαのみが発散させることが出来る。  首を噛まれたΩは一生涯、番のαと共に生きていくしか、発情期を乗り切る術が無くなる。  もっとも、一度噛まれたら他を受け付けないΩと違い、αの首噛行為は何人に対しても行う事が出来る為、この関係で負担を強いられるのはΩ側だと昔から言われていた。  番になったのに、捨てられたΩは悲惨。    小さい頃から、オレを産んだ父から幾度となく聞かされてきた言葉だ。  幸いうちの両親は、両方とも男でαとΩだったが相思相愛で、αに捨てられたり先立たれたΩを間近で見かける事はなく、話に聞くだけだった。 「肉体的にもですが、一番オメガが辛い思いをするのは孤独感です、一度受け入れられたアルファに拒絶されること、受け入れたアルファと離れなければならない苦痛が精神を蝕みます。バース科に心療内科の併設が多いのはそのためです」 「    」 「ヒートの際に頸を噛まれると言うことは、相手ができる と言うだけの話ではないんです」  う と言う言葉も出せなくなったオレに、「とりあえず、薬物検査をしましょう」と声が掛かった。 「すぐに結果が出ます。その間に薬を用意しておきますから」  言葉を無くして動けなくなってしまったオレに、看護師が声をかけて促してくれる。

ともだちにシェアしよう!