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教えて!先生っ 8
フェロモンを感じにくい体質なのか、オレはΩでも余り鼻がよくないせいか、お陰でヒートは軽いし、フェロモンに振り回されることも少なくていいこと尽くめだったんだけど、今、匂わないと言うのは……
瀬能がαだとして、それが匂わないって……
「あの、 先生の匂いを感じないんですけど……先生はアルファですか?」
「え?あははは!」
首筋を撫でる綿の感触にくすぐったい思いをしながら、瀬能の笑い声にむっと唇を尖らせる。
「僕、バース医だよ?無性だって。だから匂わなくて当然。だってそうでしょう?医者がいちいちヒートやラットを起こしていたら仕事になんないから」
道理を考えれば、そりゃそうだ と思うのに、そこに考えが行かなかったのは、思っている以上に混乱しているのかもしれない。
ピンセットの端が傷口の周りを軽く押すと、「そこに触れて欲しくない」と言う思いがふと頭をよぎった。
瀬能にそこを消毒され、見られているのが、それこそ陰部を晒しているかのような羞恥心を運んでくる。
「あ の、もういいですか⁉」
拳を作って耐えられたのはほんの数秒だった。
まだ返事も聞かないうちから、身を引いてそそくさと襟元を整える。
「 そう、だねぇ。傷は 薄いような気もするけど、傷の塞がり具合は?早い?」
「え、や、分かんないです。今朝もかさぶた剥がれて……」
「アルファの噛み傷は治りが早いんだよ。まだ血が出るとなると」
「成立してないです⁉」
やった!と、拳を突き上げようとしたオレの手を、素早い動きで瀬能が掴んで膝の上へと置き直させる。
「でも、傷口を見られる嫌悪感、あったりしたんじゃない?」
「うっ 」
「傷口が塞がってしまうとそうでもないんだけど、不安定な生傷の時は、『番から施されたばかりの証』ってことで、嫌がる人多いんですよ」
ヒタに見せた時も、確かにじろじろと見ないで欲しくて隠した記憶があった。
「そうだなぁ 」
そう言うと瀬能はPHSを取り出して人を呼ぼうとした。
「 ────え⁉阿川くんいないの?いつ戻る?当分帰らない?あの子いつもどこ行ってるの⁉︎」
通話を切り、「はぁ」と息を吐いてから、こちらに向かって肩を竦めて笑った。
「番が出来たオメガの匂いはアルファに匂わなくなるって言うから、鼻のいい彼に来てもらおうと思ったんだけどいなかったね。つかたる市の医療従事者にアルファはいないから、知り合いにいるなら確認してもらうのが近道ですね」
「知り合いに いない事もないです 」
でもなんて言って嗅いで貰えばいいんだ?
これはちょっと 難題。
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