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青い正しい夢を見る 6
一縷の望みの絶たれた絶望感に唇を噛んで俯いたけれど、直接会った時に説得する事が出来るかもしれないと、自身を励ます。
「 ────こえが、『おえが』か」
男性の方の言葉は歯のせいかどこか舌足らずで、何を言われたのか咄嗟には分からなかった。
『おめが』と呼ばれたのだと分かったのは、二人の冷ややかな視線がこちらを向いた瞬間だった。
この二人は僕を見ているのではなく、『オメガ』の部分しか見ていないのだと一瞬で悟るには十分で、ぶるりと全身が震えて……
食器を下げに戻った僕のこめかみを見て、野村さんがさっと顔色を変えた。
声を上げて僕に駆け寄ろうとしたのを、掌と視線で制止てから緩く首を振る。
これくらいは、どうと言う事じゃない。
それよりも、野村さんが僕に構うと奥様の機嫌が悪くなって野村さん自身に害がある。
────この数年でよく学んだ。
「今日、お薬を頂きに行く日なので、申し訳ないのですが午後は少し出かけます」
そう言うと、野村さんは心底困ったような 心配したような表情のまま渋々頷く。
「きちんと傷も診てもらってくださいね」
小さな声で言ってくれる言葉が有り難くて、答える代わりに小さく笑って見せた。
やはり清水家は、僕が感じた通り、『オメガ』が欲しかっただけだった。
引き戸を引いた瞬間感じた臭いは生まれてこの方嗅いだものではなくて、面食らって野村と名乗ったお手伝いを振り返ると、その善良なお手伝いは曖昧な困った顔をして率先して部屋に入り、窓を全開にする。
「ここ は、長く使っていないお部屋でしたので、すみません。何分 急で掃除が間に合わなくて……」
そう言い繕ってくれるけれど、掃除でどうにかなるような黴の臭いではない。
ここは、そう言った場所だ。
後ろを振り返ると長い廊下と幾つもの部屋が見える。
ここよりましな部屋が沢山ある事は簡単に想像できる広さだ。
それでもなお、自分にここを宛がうと言う事は、明らかな悪意だった。
じっとりとした……古びた布団に身を横たえるけれど、布団が放つ冷気のせいか体が温まらず、微睡む事すらできない。
僕は、眠るのが好きだった。
席替えで窓の傍になった時は本当に嬉しくて、窓から入ってくる風と、光と、ぽかぽかとした温もりについうたた寝してしまっていた。
授業中は何とか堪えてはいたけれど、ホームルームの後、気持ち良さのままに放課後の時間を眠っていた事もある。
友人にはよく寝るってからかわれていたりもしたのだけれど、眠るのが好きだったから、からかわれても平気だった。
だから、その時の幸せな眠りを思い出して懸命に眠ろうとしたけれど、結局その日はうとうととする事も出来ずに夜明けを迎える事になった。
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