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青い正しい夢を見る 48

「『おえが』   ぁあ 」  どこかスイッチがあったのか、今日の大旦那様はかっと目を見開いてこちらを凝視してくる。  これは……  視線の這う箇所に、悪寒が走る。  ぷるぷると力無げに震える腕が上がって、僕の手に置かれた時には息を飲むような拒絶感と嘔吐感に苛まれて、病院で医者に定規でぶたれた時を思い出した。  気を抜けば吐いてしまいそうで、それを抑える為に深く考えないようにして唇をぎゅっと噛んだ。 『  項を噛まれたオメガは、番相手以外のアルファから性的な目で見られたり接触されたりすると拒否反応を起こすんだよ』  気を紛らわせる為に医者の説明を思い出してみたけれど、「対処法はないです」の言葉まで思い出して肩を落とす。  一番いいのは、そのαから距離を取ればいいとの事だったけれど、寝たきりの世話をしていて近寄らずに は至難の業だ。  気まずいような、番以外からそう言う目で見られてる気持ちの悪さもあって、大旦那様の食事の時間は僕にとっては苦痛の時間だった。  洗濯物を入れた籠を持って小さくみしみしと音を立てる廊下を進んで行くが、途中で足が止まった。  洗濯機のある場所から干場に行くには正美さんの部屋の前を通らなくてはならず、日常の動線の上にその場所がある事に何とも言えない気分になって俯く。  正美さんのお葬式に出ていないからか、お骨を見ていないからか、それとも事故の理由をはっきり知らないからか……  僕には正美さんの死が実感できなくて、番が亡くなったと言うのに悲しみと言うのが良く分からなかった。  ただ、なんとなく……どことなく、喪失感なのか虚無感なのか、胸の内がすかすかする感覚には陥ってはいたけれど、それも良く分からない感情だった。  痛む気持ちがない訳ではないけれど、僕は正美さんと子供の事で話し合わなくて済んだ事にほっとしている。 「   、    、  っ   」  正美さんの部屋の中から微かに聞こえるのは奥様の嗚咽だ。  あの日以来、こうやって正美さんの部屋で泣いている。  人の死をここまで身近に感じた事のない僕には気の利いた慰めの言葉一つ浮かばず、申し訳なく思いながらもそっとその場を離れるしかなかった。  キシ……  普段ならば気にも留めない廊下の軋みだったのに、その時はやけに大きく響いた気がした。  まだ何も起こっていないのに、頭の端で警鐘が鳴った。 「  ────  あんた   」  その声に呼吸がうまく出来ずにひゅ と音を立てる。

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