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落ち穂拾い的な 良い夢を
名前を見て、目を細めた。
チリチリとした胸騒ぎのような落ち着かなさを感じる字の並びに、何度も記憶を手繰る。
幾度か確認して間違いじゃない事を更に確認すると、自然と息が漏れた。
それから、その名前の書かれた袋を手に挟んで額に付ける。
「 ちょ、ちょ、何やってるのよ!薬に変なことしないでよ⁉︎」
声をかけられてはっと目を開けて、爛漫そうな顔に苦笑いを返して、手の中の紙袋を手渡す。
「何もしてませんって、良くなりますよーにって祈ってただけです!」
そう言うと怪訝な顔をされた。
「この人、多分同級生なんですよね、珍しい苗字も名前も一緒だし。だから心配で……よく寝れてないのかなって」
薬の名前は睡眠導入剤だった。
と、言う事は良く眠れていないんだろう。
良く眠る子だったから、それはちょっとかわいそうだなって思う。
だから良く眠れたらな と。
非科学的だと思っても、祈ってみたくなったのだ。
「好きな子だったの?」
「 ────は⁉︎いやいや、すっげー可愛いけど、男ですよ?」
「でも彼、オメガじゃない?君はアルファなんだから、ありでしょ?ね?ね?黙っててあげるから言ってご覧よ!好きだった?どさくさに紛れてイタズラしちゃった事あるの?」
キラキラとした目に脅されて、逃げ場もなくて仕方なく呻いた。
「 ほっぺを、突きました」
顔を真っ赤にしてそう白状したのがよっぽど意外だったのか、きょとんとした顔をして「それだけ?」と首をこてんと倒しながら尋ねられた。
それだけも何も、それだって十分あやしい行動だ。
「当たり前でしょう!」
良く眠る、彼の頬が柔らかそうで……
委員の仕事で疲れてうたた寝している彼の顔を覗き込んで、どうしてもその柔らかな頬に触れたくなって手を伸ばした。
彼の長い睫毛と、ふっくらとした唇が印象的で……
頬に触れるとくすぐったかったのか微かに髪が揺れて、柑橘系のようなジャスミンのような、プルメリアの花の匂いが鼻をくすぐってどきりとした。
触れた頬は想像以上に柔らかで、滑らかで……
彼に起きないで欲しいと願ってしまったのは、若気の至りだ。
「 ──ってか、告げ口しないでくださいよ!義姉さん!」
そう怒鳴ると、来春から正式に義姉になる人はいたずらっ子のように笑ってカウンターの方へと向かった。
学生の頃より、少し大人びた声が聞こえる。
こっそりと盗み見た彼は記憶にあるよりも成長してはいたが痩せていて……そして首には噛まれた痕があった。
番がいるのだと知った時は息が止まりそうだったし、その事実が思いの外ショックで声もかける事ができなかった。
学生時代に委員会を一緒にした人間なんて覚えてなんかいないだろうし、一緒に文化祭を回ろうと言う約束もすっぽかされてしまって……
この上、誰?なんて聞かれたら泣きそうだ。
義姉の渡す薬で、少しはゆっくり眠ってくれたらいいと、つい願ってしまうのは、記憶の中の彼が幸せそうに眠っていたからだ。
だから、
「ゆっくりおやすみ」
良い夢を。
END.
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