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花占いのゆくえ 26
羨ましい……とは思わないけど、そう言う家庭もあるのか と改めて知らされた気がして、なんとなく苦い思いに顔をしかめた。
「大きくなれないよ?」
「おっきくなるにはお前が食べないとだろー?」
「むっ人が気にしてることっ」
ぷぅっと頬を膨らましながらも、六華はさっさと弁当包みを開いて蓋を開ける。
もう少し肉が欲しいなと思わせるけれど、色合いやバランスの考えられたそれについ目が行った。
「うまそ 」
「美味しいんだよ!半分あげる」
「箸もないしいいよ、ほら、薫が待ってんぞ」
「あ う、じゃあ、急いで食べて!」
「は⁉」
弁当用の少し小さめの箸を器用に持って、卵焼きを掴んで口元へと突き付けてくる。
明るい黄色の、甘いのかな?と思わせるそれはいい匂いがして、つい反射で口を開けた。
「ん?」
「美味しい?これはね、俺が焼いたんだよ?」
「なんで甘くないの?」
怪訝にそう言うと、六華の方が微妙な顔をする。
「なんで卵焼きが甘い必要あるの?」
何言っちゃってんの?的な雰囲気に少し怯みそうになったけれど、卵焼きは甘い物じゃないのか?
薫が作ってくれる卵焼きは毎回甘くて、何度もおかわりが欲しいとねだるほどうまい。
「出汁かお塩かの一択でしょ?」
「二択になってんぞ」
「んんっ こっちのミートボールも美味しいんだから!」
言葉を紡ごうとした口にむぎゅっと肉団子を押しこまれて……これは甘酸っぱくていい感じだった。
「お芋煮たのも美味しいんだよ!」
あーんして!と自分の口を大きく開けながら迫ってくるので、仕方なく口を開けてやるとそこにぎゅっと詰め込んでくる。
小さく首を傾げながら、オレの感想を待っているようで……
「 ん。美味いよ」
ぱぁっと満面の笑顔を見せて満足そうな六華に苦笑を漏らしそうになって顔を背けると、目の端に慣れ親しんだ姿が見えた。
赤みの引いていない顔を不安そうに歪めて、視線が合ったせいで渋々と言った感情を必死に隠そうとしながらそろそろと近づいてくる。
あからさまに避けられないのはほっとするが、いかんせんその態度はチクチクと胸を刺す。
「……ほら、薫が迎えに来たぞ」
「薫!あっ、えっと、すぐ行くから待ってて!」
オレの頬を掴んでおかずをぎゅっぎゅっと詰め込みながら慌てて言う六華を押し退けて、もういいからと言って薫の方へと押した。
「あと!あとこれもっ!あーん!」
箸の先には綺麗な色のピーマンが挟まれていて……
苦手なそれに思わず要らないと言おうとしたが、きっとこいつは栄養だなんだと口に突っ込んでくるに決まっている。
幸い飲み物は残っているから、仕方なしに大人しく口を開いた。
「これも美味しいでしょ?仁はね、これだとピーマン食べてくれるんだ!」
ふふふ と勝ち誇った笑顔だが、ごまかすように味付けはされていても苦い物は苦いしピーマンはピーマンだ。
「 ────俺がいくら言っても 食べないくせに」
嫌々咀嚼して飲み下そうとしたオレに、そんな声が聞こえてきた。
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