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花占いのゆくえ 37
伏せているせいか表情を見る事は出来なかったけれど、なんだか緊張と震えがちらちらと垣間見えて落ち着かない。
まだ高校生の自分では課題の重要性はいまいちわからなかったけれど、その道に進もうとしてしっかり学んでいる人間にとって作品が大事な物なのはわかる。
故意にヌードと伝え忘れたわけではなさそうだし、本来のモデルのパートナーが発情期に入ってしまったのも仕方のないことだし。
ミナトと、薫に挟まれて……
沈黙を溜め息で破り、薫に尻ポケットに入れたままだった財布を手渡した。
オレと財布を見比べて訝しむ表情の薫に笑いかける。
「オレはカフェオレね、薫も好きなの買っていいよ」
「なんで今なの⁉」
「飲みたくなったから。どっかに売ってるでしょ?んで、ちょっと時間潰して待っててもらえる?」
ちょっと強気な口調で言うと、薫が反論してくる前にミナトが「食堂の隣に購買があるから」とぼそりと呟く。
「ミナトさんも困ってるし、引き受けたのはオレだしね」
「だって 裸っ」
裸? は、確かに恥ずかしいけれど、どうせ学校でも夏なんか普通に脱いでいるんだ、減る物じゃないしその部分はこだわりのない所だった。
「 喜蝶の……裸っ見られるのが 」
そこまで言うと薫ははっと言葉を飲み込み、ぎゅっと唇を噛み締めて視線を足元へと移し、「だって 」と呻く。
「 よく、ないよ」
「僕と喜蝶くんとは付き合ってるんだし 問題ないよねっ⁉君こそ、彼氏以外の裸を見るなんて良くないんだから……退室して!」
あの時の言葉にミナトまで乗っかってくるとは意外だった。
「集中もしたいしっ」
「でも 」
「恋人同士のことに君は関係ないでしょ⁉」
その強い言葉に「でも 」と繰り返されていた薫の言葉が消えて、何も言い返せずに唇を震わせた。
「か、かおる?」
薫の手の中の財布が微妙に形を歪ませて、力の込め具合をオレに教える。
言いたいことがあるのに言えなくて、その事に納得していない態度だった。
「……っ カフェオレだったよね」
手を伸ばそうとする前に、するりとこちらに背を向けて薫は飾り気のない不愛想な扉を潜って出て行ってしまって、後味の悪さに思わず歩き出す。
「ちょっと追いかけてきます!」
「落ち着かせてあげたらっ?」
ブレザーの裾を思いの外強い力で握り締められて、たたらを踏むように止まると、その勢いのままミナトがぽすんと背中にぶつかった。
オレより幾分小さくて、その衝撃は軽いはずなのに足が縫いとめられたように動かない。
「一人で考える時間も必要だよっ」
「……でも、ああ言う顔の時は話を聞いて欲しい時だし」
うまく自分じゃ言葉を見つけられない、そんな時だ。
だからあの表情の時はオレが促して、言葉を補足してやって、言いたいことを聞いてやる、ずっとそうしてきた。
「薫の話を聞いてやらないと」
「い、 今まではそうかもしれないけどっ……こ、恋人の前で、他の子を追っかけないでっ」
付き合った歴代のΩ達に言われた言葉がここでも出てくるのが意外で……
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