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花占いのゆくえ 71

 ポトポトと転がり落ちる涙を眺めながら、妙に冷静にそんなことを思う。 「いっぱい 汚されたのっ  しられ  たくなっ  知らない人に噛まれたの  知られたくないっ 」  自分自身を抱きしめる手に力が籠って、指先を細い腕に食い込ませながら小さく繰り返される拒絶の言葉に項垂れた。  オレが、運命を見つけようとしたのがいけなかったのか……  薫が、運命と会ってしまったのがいけなかったのか……  どちらにしてもオレの身勝手がこの結果に結びついたことは確かだろう。 「    かおる」  そのまま自分を掻き毟りそうな手を取り、爪の欠けた指先に口づけた。   「  覚えてて、薫。オレは薫のことが世界で一番大事だし、愛してる。これから出会うかもしれない運命なんてやつよりも大切だから」  オレの唇を薫は震えて見ているだけで、泣き続けるままに返事はない。  涙で溢れた瞳はこちらを見ているようで、そうでなくて…… 「──── だから、オレの言った通りにしてね」  薫の運命から零れてしまったオレに出来ることは…………  投げつけられた鞄の金具が目の上に当たり、骨に響くような鈍い痛みと音がした。  追いかけるように金切り声と、それを抑えようとする第三者の声がして、オレは切れたらしいまぶたから流れる血を感じながら、今まで見たこともない形相で喚いている薫の母を見遣る。  優しい人だった、隣の放置された子供なんて面倒なだけだろうに、何くれと世話を焼いてくれて、気に掛けてくれて、よく笑いかけてくれた。  そんな人に、オレはただ頭を下げるしかできない。 「なんでこんなっ ことをっ  」  押さえようとする看護師達を振り切ってオレに殴りかかってきた時も、何も抵抗はしなかった。  大事な一人息子を襲った相手に拳を振り上げるのは、当然だ。 「  なんとかっ言いなさいよ!」  悲鳴に近い高い声に、こちらに駆けてくる足音が重なる。  ああ、あの男が来たんだな と思うと同時に、また薫の母を傷つけるのかと思うと憂鬱でもあった。 「  ────っ」  薫の母親に掴みかかられているオレを見て、はっとした次の瞬間には殺したいと言う感情を隠さずに睨みつけてくる。  跳ねた息の下で動く唇が、「ころす 」と小さく動くのが見えた。

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