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かげらの子 1

 適度に厚さのあるガラス瓶の中に、砂浜で拾って来た小さな貝殻や白っぽい瑪瑙、洗われて角が取れて丸くなり磨られた青や緑のガラス片をぽとぽとと落とすと、かろん かろん と思いの外甲高い音がして溜まって行く。  それを青い瞳が見詰めて、蕩けるように微笑んでくれるのを想像しながら振り返ってみるが、しずるの期待した瞳はどこにもなく、代わりにベッドメイクしておいたシーツや掛布団が団子のように丸められてその上に小さな背中が見えた。  狭くはないけれど、広くもない、壁も床もシーツも真っ白で味気ないその部屋の中で、しずるが少しずつ持ち込む外からのお土産と、この部屋の主だけは色彩をもっている。  主である雪虫がそろりと顔を見せると、白い雪原にぱっと青い花が咲いたような印象を受けた。  朝日を一身に浴びて、その美しさが最高だと誇るような瞳だ としずるは常々思っていた。  それがちょっと睨むようにしずるを見詰めてから、さっと逸らされてしまう。  そうされると胸の中がぽっかりと空洞になったような、そんな不安感に陥って、いともたやすくしずるの気分を落ち込ませる事が出来ると言うのを、雪虫は分かっているのかは分からない。 「雪虫?どうした? ほら、今日拾って来た中に、綺麗な巻貝があったんだ、一緒に見ない?」  ちら と上目遣いに見られて、思わずしずるの顔がにやける。 「見ない」 「えっ  どうしたの?布団直そうか?」  遊んでいたら布団がどうにもならなくなったのかな?と推測を立ててみるも、どうやら違うらしい。ちらちらと貝殻等が入った瓶を見たそうにはしているのに、そこから退くことが出来ない そんな感じだった。  これがどう言った状況なのかは、しずるは何度か経験しているからよく分かっていた。  自分の荷物を置いてある棚の上に目を遣ると、深緑の帆布で作られた鞄が形を変えているのが見え、しずるは笑いそうになるのを堪えながら、必死に固い表情を取り繕いながら溜息を吐いて見せる。 「携帯隠しちゃった?」  大神や瀬能から連絡が来た時、すぐに対応しないといけない事柄だとこう言う事をされると困るのだけれど……  傍に膝をついて雪虫のサラサラとした髪を撫でて機嫌を取っていると、布団の下から小さな振動と音が聞こえ始めた。  ──、──、──、  このリズムは瀬能だ。  その音が雪虫の耳にも届いたらしく、泣きそうな顔でしずるを見上げた後、そろそろと布団の団子の上から身を起こす。雪虫自身でこの抵抗が意味のないものだと分かってはいるらしい。  しずるが丸められた布団の下に手を差し込むと、爪先にカツンと固い感触がした。 「あった!  」  通話を押した途端に「緊急だから急いできて!」と切羽詰まった瀬能の声が、耳が痛くなる程の声量で響いてくる。 「はい!すみません!すぐに向かいます! ……雪虫、ごめんな?呼び出しがかかって」  電話はあっさり切れてしまい、無情な沈黙を垂れ流しているだけだ。

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