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お可愛いΩ お可哀想なα 29

「どうしたの?あ!紹介するね、衣笠マモルと薮谷千鶴だよ」 「っちは」 「よろしくね」 「阿川六華くんだよ!んで、僕!釘宮シュン!クラス違うけど、海に行ってる間に仲良くなれたらいいね!」  そう言うとそれぞれぺこりと頭を下げてくれるけど……なんだか微妙そう。  きっと、二人はオレの名字だけ聞いて銀花と間違えたんだろう、だからあのはしゃぎようだったのはわかるんだけど、その落差をこうも見せつけられると今は泣いちゃいそうだ。  こんなところでいきなり泣き出すなんて、皆困るだろうからしないけど……でも、ホント、ちょっと、泣いていいんじゃないかなぁ⁉ 「きゅ、急にごめんね、よろしくお願いします」  取り繕った笑顔でそう言ったけれど、ハイテンションで教室を飛び出してきた時から考えると雲泥の差の対応で、「こちらこそよろしく」って。  一応そう言って貰えたけど……ホント、凹む。  気分が落ち込んでるし、授業なんて受ける気分じゃなかったけどそこはもう身に付いた習慣で、サボるなんて考えが及ばない俺は本当に貧乏くじばっか引いてるんじゃないかな。 「  じゃあ、これを準備室に運んでおいてね」  って、古典の烏丸先生に言われてしまうと、「はーい」って良い子のお返事を返してしまう辺り、銀花に言われた「いい子ぶる」「おせっかい」は条件反射レベルなのかもしれない。  ずしって重い古典の小冊子ドリルをクラス分……  右手の調子が悪いってのも言い出せないまま両手に抱えて隣の棟の国語科準備室まで。 「お腹空いたなぁー……」  そう言うとオレの言葉に返事するようにお腹がくぅって音を立てる。  よくよく考えれば昨日の夜もちゃんと食べれなかったし、今朝はまるっと食べれなかったしで成長期の……はずの男子にはあるまじき食生活になってしまっていると気が付いた。 「 りーっかくん!先生の用事?」  隣のクラスの前を通りかかろうとしたら、窓からひょっこりと釘宮くん……じゃなくて、名前で呼んでって言われたからー……シュンの顔が覗く。 「職員室?」 「ううん、準備室まで」  よいしょって抱え直すと、シュンは間髪入れずに「手伝うよ!」って言って教室を飛び出してきて、遠慮する間もなくオレの腕から小冊子ドリルを半分取り上げてくれる。 「わ わっいいのかな?」 「えー?だって、重いでしょ?」  可愛らしいふふって笑みを向けられると、ちょっと現金だなって自分でも思っちゃうんだけど、嬉しくて今朝のこととか昨日のこととか考えないようにしていたこととかが少しだけ軽くなったような気分になった。

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