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お可愛いΩ お可哀想なα 36
両手を広げて飛び込んで行ったオレと同じように、しっかりと手を広げて慌ててこちらに駆け寄ってくれるのが嬉しくて嬉しくて、馴染んだ体温としっかり抱き合えた瞬間に膝の力が完全になくなってその場に座り込んでしまう。
エントランスで何を……って思うのに、銀花にしがみついて震えているオレはそれどころじゃない!
「りっか⁉りっか!どうしたの⁉」
「ヤバいよ!ヤバいんだって!」
ぎゅうっと力を込めると、それと同じ力で抱き締め返してくれる。
「ヤバいのはわかったよ!ってか、わかってるよ!だからここで待ってたんだもん!」
「こ こわ 」
「いいよ!待つから!」
ぎゅうぎゅうと抱き締め合って、お互いの体温が交じり合って同じになるくらいまで銀花はじっとそのままで、オレに何があったのかせっついて聞いて来ることはなかった。
お互いの心臓の音が、少しずれてたのがゆっくりと重なって行って……
ほっとしてたまらなく気持ちいいのはこうやって産まれたからだ。
「 ────ん、大丈夫 」
やっと心が凪いでくれて顔を起こすと、銀花はまだ少し心配そうにしている。
「ホント?もう少しこうやってても大丈夫だよ?ここ、人通らないし」
「うぅん、大丈夫。ホットミルク作るから、一緒に飲んで」
「!」
ぱぁっと銀花の顔が明るくなって、オレが差し出した手に飛びついてきた。
「お砂糖じゃなくて蜂蜜がいい!」
「いいよ」
「あとね、カモミールが欲しい!」
「しかたないなぁ」
さっきまでは銀花がオレを慰めていたのに……
でも、この方が普段らしくてほっとできてよかった。
銀花のは、大きめのマグカップにカモミールで匂いをつけて温めた牛乳を入れて、少し多めに蜂蜜を入れたやつ。
オレのはー……銀花が温めるのに失敗して、爆発して膜がなんかべちゃぁってなったやつ。
「…………」
「あまーい!おいしーい!」
「…………」
腑に落ちないのは気のせいかなぁ?
オレの分は銀花が作るって意気込むから作らせてみたけど……膜がカチカチになってメチャクチャ飲みにくいんだけどっ!
まぁでも、ホットミルクのお陰か、銀花がぎゅってしてくれていたお陰か、ちょっと血の気が戻って来た気がするし、銀花の顔色もピンク色だ。
「銀花……ありがと。いてくれて、助かったよ」
そうお礼を言った拍子に帰り道でのことを思い出してしまい、ぶるりと体が震えた。
「な、なんか、あったのかなって……スゴイ、ここがモヤモヤぎゅぎゅって」
そう言うと銀花は俯いて胸を押さえる。
エントランスでオレの帰りを待っていてくれたと言うことは、それだけはっきりとオレの恐怖を感じ取ってしまったんだろう。
「ごめんね?」
「謝んなくていいよ、でも、また攫われそうになったとか、なんかあったのかなって。今は仁達がいないから探しにも行けないし……しんぱ し、心配だ、 た 」
ぼろぼろ って涙が零れて、テーブルの上に沢山の水たまりを作る。
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