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第1話
「ごめ‥‥
取られちった」
申し訳なさそうに呟く椿。
「や。
良いよ別に」
一瞬の間の後
「そんな欲しかった訳でも無いし
俺ん家にぬいぐるみとかあったら、逆に気持ち悪いじゃん?」
自嘲気味な笑みを浮かべて、隆治が負け惜しみを呟く。
でも、半分本当で、半分は、嘘。
アノぬいぐるみが欲しかった訳じゃなくて
“椿から貰った”ぬいぐるみだったから欲しかった。
そして椿が真っ先に隆治に
「いる?」
そう、声を掛けたのだって
“そこにたまたま隆治が居たから”なんかじゃなくて
初めから“隆治に貰って欲しかった”からで
だからこそ、隆治の一瞬の間だって
その一瞬に込められた想いを
椿は容易に察する事が出来た。
「じゃぁ、私帰るね
今日は夕飯作るの手伝う日なんだ」
有希が胸元に抱いたぬいぐるみの手を掴み、小さく手を振る。
「「ん? おぉ」」
ほぼ同じタイミングで返事を返して、椿は軽く手を上げ、隆治は律儀に手を振り返す。
有希の後ろ姿を見送った後
「夕メシ、俺らはどうする?いつものファミレス行く?」
言いながら出口に向かう椿の後を、まるで親鳥の後を追うヒナのように、狭い歩幅で隆治がぴったり付いて行く。
「今日、は」
ふ。と小さな息を吐いて
「椿ん家
…行っちゃだめ?
ぁッぶ!」
瞬間、椿の足が止まり隆治がその背中にぶつかりかけるのを、なんとかギリギリで留まった。
「マジで言ってんの?」
背中を向けたままの問いかけに、隆治が顔を赤らめて
「マジで言ってんの」
同じ言葉で返答する。
「ふぅ~ ん」
意味深な言葉を呟いて、椿がぐるりと振り返る
同じくらいの身長のせいで、真っ赤な隆治の顔が、椿の目の前に晒される。
ただでさえ恥ずかしい事を口にしたのに、目の前にキレイな椿の顔のどアップが現れ、正視出来ずに思わず顔を背けようと、した
のに
椿の両手に顔を挟まれて、正面を向かされる。
キレイな椿、の、綺麗な目に吸い込まれそうになって、軽く目眩を起こす。
そのキレイな顔がいやらしく『にんまり』と歪められたかと思うと
「俺。
据え膳、食っちゃうよ?」
その顔に、その声に、似つかわしくない雄全開の『お前を食うぞ宣言』に、背筋がゾクリと震える。
とっくの昔に“そういう関係”になっていたものの、毎回椿の男前っぷりに隆治は腰砕け。
「たんと、召し上がれ」
自分の台詞にまで身悶えて
「は。」
全身が熱を帯び始める。
今すぐにでも椿の口唇にむしゃぶり付きたくなった衝動は
「ぺチッ」う゛ッ」
椿のデコピン一つで牽制されつつも
「家まで、おあずけ」
そうやって意地悪を言う小悪魔な笑みに、まだ全然継続中。
「きゅぅん」
子犬みたいな鳴き真似をして困り顔を椿に向けてはみたけれど
『おあずけ』を言い渡したハズの椿だって
『致したい』気持ちはおんなじで
隆治の手を掴むと、大股の早歩きで自宅マンションへと急ぐのだった。
~FIN~
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