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第1話
「「あ」」
同時に手が止まる。
「「どうぞ」」
また同時に相手を促す。
このままだと
『じゃぁ』
と言って缶を捨てようとするタイミングまで被ってしまうんじゃないかと想像し、ちょっと笑ってしまう。
「へへ」
そんな俺につられる様に、彼も笑う。
『あ。笑うと意外に優しい顔になるんだ』
“鳶 ”という職業ってだけでなんだか怖いイメージだったから、ふとそんな、失礼な感想を覚えてしまった。
「お兄さん、営業?この時期寒いから、大変でしょぅ?」
『この時期』
雪は降らないけど春になる手前の、まだ空気が痛い時期。
外回りをしていると、指が悴 んで書類を取るのが大変な時期。
だけど
「お兄さんこそ。こんな寒い時期の、しかも高い所での作業なんて、下よりずっと寒いでしょぅ」
ちょっと前なんて、雪で足が滑る、なんて事も無きにしも非ず、だ。
「あ~~、うん。
もう20年近くやってるからね~~~
慣れた」
今度ははっきり“ニカッ”と向けられた笑顔は
日焼けした上に浮かぶ笑いジワを、クッキリと浮かび上がらせた。
『あぁ~
この人、良い人だぁ』
自分も長い事営業をやって来たお陰か、人を見る目には自信があった。
でもそれだけじゃない、心が暖かくなるような。
そんな魅力を、この人から感じずにはいられなかった。
「20年か。すごいですね」
ほっこり癒されてしまった自分の心を見透かされそうで、
なんだか目を逸らしてしまう。
「お兄さんは」
「え」
「ここら辺担当なの?」
『ここら辺』を、空き缶を持ったままの手で空中に円を描くもんだから
「ぷ」
また少し笑ってしまった。
「ん?」
キョトン。を絵に描いた様な表情まで、可愛い
「いや
いつまで空き缶持ってるんだろうと思って
二人共」
くすくす笑いながら、自分の持っている空き缶も視線の先に持ち上げる。
「「あ」」
また声が重なったのは
持っている空き缶までもがお揃いだったから。
『予感』
とでも言うのだろうか
“ あぁ俺。この人と恋をする ”
いや違う。
俺は。もう。
この人に‥‥‥
~FIN~
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