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第1話
以前から計画していた
【花見こたつ】
折畳みテーブルと湯たんぽと
各自で持ち寄った薄手の毛布と
メインのビール。
朝まだ早いうちから特等席を取れるのは、接客業の特権。
平日休み万歳だ。
出勤や通学で人や自転車の行き交う土手を、キャッキャと下って桜の下へ。
折角の満開なのに仕事とかご苦労さん。
なんて口先だけの労いを呟いて、サクサクこたつを組み立てる。
「はは。あったけー!」
思った以上の温もりに感嘆の声を上げると
「ってもすぐぬるくなんだべ?
今のうち暖まっとこうぜ」
言いながら缶の蓋を開けて乾杯の姿勢。
「準備早ぇえって!」
和真のが先輩だけど、1コしか違わないせいもあり、入社して間もない頃からずっとタメ口。
それでもすんなり受け入れてくれた和真に、俺はすっかり甘えていた。
「はやく!」
そう急かされてもマイペースな俺。
いや。これはむしろ和真がフザケてるだけなので何の問題も無い。
「はいはい」
受け流すように返事を返してから、急かしながらもず~~~~っと持ち上げて待っててくれてる和真の缶に、自分のを軽く当てた。
「「かんぱーい」」
外で味わう、しかも誰も居ない土手で飲むビールの旨さったら。
「最っ高~~!」
朝っぱらから飲むのも久し振りで、
ついつい楽しさに任せて次々と缶を開けてしまっていた。
*
*
*
「んんんんん~~~~」
だいぶ飲んだ。自覚はある。
お陰で体も火照って来てる。けど
「大丈夫か?昌志?」
心配そうに和真に顔を覗かれて、
「んんん~~~~」
また唸りながら縮こまる。
桜満開、とは言っても土手。しかもすぐ側には川が春のせせらぎを奏でている。
良く言えば。
つまりは
「さぶい‥‥」
長時間花見が出来る程には暖かく無く、近くに居たハズの家族連れも、いつの間にか帰ってしまったようだった。
言うなり和真の毛布ごとズルズルと自分の方へ引っぺがし、独り占めして包 る。
「ちょぉッ!
こぉらッ!」
もちろん和真に対しての意地悪だから、ついニヤケてしまったら、それを見越した様に和真も笑いながら俺を制す。
こんな意地悪しても、笑って許す和真がスキだ。
こんな意地悪してるのに、許してくれるのは、俺の事がスキだからでしょ?
ねぇ 和真?
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「昌志ッ返して。
俺だってさぶいよ~」
昌志の言い方を真似て、ふざけてみる。
「あはは」
そんな俺の抵抗なんて完全に無視して、毛布に包まりゴロンと寝転ぶ。
こんなちっちゃい意地悪をして楽しむ、昌志が可愛い。
こんな晴れた日に、こんなキレイな桜に囲まれて二人きり。
桜に後押しされてるみたいに『スキ』が零れそうになる。
あ。あと酒の力も借りてるか。
自分で思って、つい笑みが溢れた。
「なに一人で笑ってんの~
思い出し笑い?やぁ~らし~」
いつもより更にゆったりとした話し方になる昌志が、
火照って熱くなった体温が、
もう、昌志の全てが
‥‥エロい。
やべ‥‥
勃‥‥ッ
「んふ。
和真さぁ~。俺の事、スキでしょ~?」
「ッッ」
見透かされてた。
そう一瞬で我に返って、
その一瞬で血の気が引いた気がした。
「おれもぉ~~~
和真のことスキ~~」
甘ったれた言い方は、酔ってることを意味したけれど
そんな事、酔って麻痺した理性なんかじゃ歯止めなんて利いてくれるハズも無く。
「昌志」
愛しい人の名を呼んだ口唇そのままに、溢れた名前を持つ相手の口唇を塞ぐ。
「ッん」
酔っているせいなのか眠たいのか
抵抗もしない昌志の口唇は、柔らかく開いている気がして、そのまま舌を侵入させる。
「ぁ‥」
小さく漏れ聞こえた声にまた理性を削がれ、昌志の口腔内を掻き回し、吸い尽くす。
仄かなビールの味と、甘い舌触り。
いやらしい水音に混じる、昌志の吐息。
我慢出来ずに毛布に中に手を差し込むと、しっとりと汗ばんだ鎖骨に触れる。
「ん」
それだけで微かに反応を返してくれた事に勇気を貰い、絡めた舌をそのままに、毛布の中へと潜り込む。
寒く感じた空気の中、二人分の体温が毛布の中で拡張され、汗で纏わり付く衣服を不快に感じさせる。
「ぁッつ‥‥」
重なる口唇の合間から溢れる昌志の吐息まで、熱を帯びているようだった。
「でも、こんな所じゃ服も脱げないでしょ」
もう、下心
しか
無い。
「うち、来る?」
うちの近所で花見してよかった。なんて感想を抱きながら、毛布とテーブルとゴミと。
昌志に荷物を預けないようにして、更に酔っ払いを引きずって自宅アパートへ急いだ。
自宅に着いて飲み直し。
なんて余裕も無いまま、持って来た荷物は玄関口に放り投げ、
引きずって来た酔っ払いは万年床に転がした。
「服、脱ぐ?」
言いながら、抵抗しない(出来ない?)昌志の服を剥ぎ取る。
「ぅう~ん」
返事とも取れる吐息を漏らし、脱ぎやすい様に腕を動かす昌志に
『もしかして』なんて期待を膨らませる。
『このままイケちゃったり‥‥
する???』
脱がせるのを口実に、体のあちこちをドサクサで撫で回す。
ピクンと細やかな反応を返したり、小さく吐息を溢したり。
これで欲情しないで居られるほど、俺は大人でも無ければ不能でも無かった。
楽にしてやるフリして脱がした上着とパンツは枕の上の方に押しやって、赤く色付いた昌志の顔を覗き込む。
「綺麗な‥‥」
思わず漏れた心の声が届いたのか、薄く目を開いたかと思うと、昌志は緩やかな笑みを浮かべた。
『もぅコレ、
わざとっしょ!!????』
そうとしか思えない、誘うような色香に、俺は簡単に堕ちた。
残った下着を脱がせる暇さえ惜しくて、他はもぅ、捲り上げた先にある桜の花弁 のような先端に舌を這わせ、汗で張り付いた下着の隙間からは手を差し込んで、すでに硬くなったソレを握り込む。
「ゃ。アん」
漏れ出た声が“嫌悪”でも“拒絶”でもなく“喜悦”だった事を確認した俺は、欲望のままに昌志を求め、そのまま貫いた。
* * * *
酔いが醒めた後
身体中に散らした桜の花弁みたいなキスマークを、昌志に散々怒られたけど、
また仲直りのセックスをして誤魔化した。
~END~
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