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Ⅰ フリュードリヒ・ヴィルヘルム③

(いな)! ゲイではない。事実は『否』だ。 だが俺は虚偽の報告をした。 フリュードリヒ・ヴィルヘルム、我が実の兄に。 それも公式の文書として。 この俺! 王位継承を放棄したとはいえ、かつての王位継承第3位の王子である、この俺『夏月・ラウ・ヴィルヘルム』がだ。 なにゆえ!! 「公文書でゲイだとカミングアウトせねばならんのかァァァァーッ!!」 ………ハァハァハァハァ。 「殿下」 「すまん。止むを得ぬ事情とはいえ、取り乱してしまった」 「お気持ち、お察しいたします」 「………」 「………」 「………国中に自らゲイだと触れまわった俺の気持ちが分かってたまるか」 公文書である。 発行したその日のうちに『夏月・ラウ・ヴィルヘルムがゲイである』事実が、本国全員の知るところとなった。 嘘の事実であるが、もう後には退けない。 俺はゲイではない。 だが、しかし。例えゲイであったとしても、どうして! (性癖を国民にカミングアウトせねばならないッ!) 兄は猜疑心が強い。 王位継承権を放棄したところで、信用には足りぬと判断するだろう。 ゆえに。 公言するしかなかったのだ。 嘘を「嘘偽りない形」で。 『俺はゲイであるから子を成さない。あなたが王位を継承し、国王となった後も俺の子孫に王位が渡る事はない』 これで兄の疑心が少しでも晴れるなら……と。 だが、そのせいでッ 「25に……」 25になった俺の体は………… 「未だに清いのだぞォォォォーッ!!」 「殿下」 ……ハァハァハァハァ。 「すまん。取り乱した……」 (兄のせいで) クッ 25歳の俺は未だに…… 童貞なのだ。

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