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好きだけど踏み出せない

二次会なんか行くのやめよう。 どちらが言い出したんだっけ。 まあ、いいか。俺はおまえといっしょにいられたら、それでいい。 俺たちは高校生のまんまだな。文化祭でもテスト明けでも、クラスメイトが集まっているのに、ふたりで抜け出して。 変わらない関係。 ずっと、ずっと友達。 おまえも男。俺も男。 だから、友達。 おまえがどんな大人になっても、俺は離れない。 でも俺は、おまえに見捨てられないような人間になりたいけどな。 「同窓会、楽しかったな。浅田」 俺は、隣を歩く幼なじみに声をかけた。 ビールだのサワーだの飲んで盛り上がる級友たちを眺めながら、俺は冷静だった。 表向きはテンションを合わせる。けれど、心のなかでは、浅田とふたりきりで話したかった。 今夜は、十年ごとに行おうと決めていた高校の同窓会の一回目。 俺たちは二十八歳になった。 「みんな結婚しちゃったなあ……」 「独り身なのは、俺とおまえだけになったなあ……」 浅田が肩を組んできた。アルコールの匂いに一瞬、めまいがした。 「こうなったら、2人で恋愛フラグ立てないか?」 「マジ?」 ……浅田、かなり酔ってるな。 「ホテル行くぞ」 「行く! 行く、行く!」 一夜の過ちにしないで、既成事実にしてやる。 片想いしてる俺の前で気がゆるんだ、おまえが悪いんだぞ。浅田。 「あはは。冗談に決まっているだろ」 「だよなー」 ……本気にしただろ、バカ。 「……あのさ!」 俺は立ち止まると、組まれていた肩をとく。浅田の背中を叩いた。 「俺たち、ずっと仲良くやっていこうな! 一生だぞ、一生!」 「親友って意味か?」 ……え、なんで。 なんで、そういうことを聞くんだよ。 ……言いたくない。でも、言わなくてはいけない。 俺たちは、友達だから。 「そ、そうだよ! 一番の親友! ……俺は、おまえに嫁ができても好きでいる! おまえの嫁よりも……好きでいるから……」 「三角関係じゃん、それ。そんなことにはならねぇよ。ずっと、ずっと……な?」 浅田は、俺の頬にふれた。 本当に酔っているんだな。 浅田の手は熱を帯びていた。 「俺は結婚しない。……恋を叶える勇気がないんだよ」 「苦労してんだな……」 だれが好きなんだろう……いや、期待してはいけない。踏み越えてはいけないんだ、俺たちは。 「ああ。もし、人恋しくなったら、真っ先に連絡する。そのときは……さ?」 「そのときは?」 「俺の長い片思いの話を聞いてくれよ。一晩中」 浅田。俺は。 夜通し聞くなんて、物分かりのいい友人じゃないんだよ。 「場所はホテルか?」 「え?」 「ホテルなんだろ?」 俺の思いに気づけよ、浅田。 気づいて、慌てて、戸惑って、ぐちゃぐちゃになってしまえ。 「んー、どこかなあ? ……あ、終電に間に合わなくなる。急ごう」 ああ、おまえはずるいよ。 そうやって、はぐらかして。 ……俺たち、このまま友達なんだろうな。一生。 先に歩き始めた浅田に向かって、俺はつぶやいた。 「……ヘタレだな。俺も、おまえも」 「なんだよ?」 ふりむいた浅田は、笑っていた。 だから、俺も精いっぱいの笑顔で歩き出した。 「なんでもねぇよ」 俺たちは、友達だから。 ……ちゃんと、笑えているかな。 【終】

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