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04(side蛇月)

 言うけど、普段は絶対にしない。  オレは物分りのいいタツキ。  絶対、絶対咲の隣に女がいたからってあんな迷惑千万な奇行はゼッテェしねぇ!  まともな俺が今の俺を見たら、なんてことをしているんだと殺しにかかると思う。  なぜなら俺は、咲が私だけを愛して、と縋りつく者を歯牙にもかけず足蹴にする光景を見たことがあった。  押してダメなら引いてみろなんて駆け引きを打とうものなら、容赦なく「それじゃやめよ。バイバイね」と笑って背を向ける姿も見たことがある。慈悲はない。  咲の隣に自分以外がいて泣き出すようならさようならにしようと、笑われたら?  座布団に乗せようとしただけでびえええ、と幼児のように泣きついて離れない俺を見つめる咲は、どう思っているのだろう。  ウザイかも。キモイかも。  俺を捨ててしまうのかもしれない。 「タツキ。別に俺怒ってねーよ。けどやかましい。だから泣くな? な? んで一回退いて。置いてったりしねーから」 「うっ、ひっく、ぅ、嘘ぉ……! ひっ、く、嘘や、っだ、や」 「ウソじゃなーい。じゃあいいや。サクヤくんにも座らせて」  泣いて泣いて手を離さない俺の手に、自分の手を重ねて、咲は諭すように「な?」と首を言い聞かせた。  その優しい声が、俺の涙を更に誘う。  咲が自ら優しくしようなんて意識をしなければ、たまに本物の優しいをくれた。  十年以上付き合いのある俺だからわかることかもしれないが、咲は、子どもには少しだけ優しい。  丸裸で咲を求め、ワガママを言って甘える俺は、子どもに見えたのだ。  酒浸りの脳じゃまともに認知できもしないが。  ぽろぽろ、めそめそ。  俺は泣きながら震える手を離す。  咲は壁を背によいしょともたれかかり俺の隣に座り込んだ。  そのままぽんぽん、と自分の膝を叩く咲の姿に、俺は間髪入れずにニャーンと飛びついてその体に跨り、幼児さながらに抱きついてまたトロトロと涙を零す作業を繰り返す。  少したりとも離れたくない。  このままずうっと抱きついていたい。  咲は俺の背中に右腕を回してシャツに手を入れ、爪を立てた指先で背骨をトントンとなぞりながら官能的な手つきで俺の体を撫で回すが、左手は優しく髪をなでてくれた。 「ん、ぁ……っ、とんとん……ぁう……」 「あはっ。感じてんの? 背骨で遊んでるだけなのにタツキは敏感だなぁ」 「あんま触んの、やだ……ぁっ……は、っ、……ん……頭フワフワする……」 「フワフワ? てか泣いてんのか感じてんのかわかんねぇよ。語彙力絞りだしな、クソガキ」 「ぁ、んっ……咲……へへ……オレが、咲……ひとりじめ~……あったけぇ、ねぇ……」 「酒くせー」  ケラケラと俺を馬鹿にする笑い声。  それすらもこの上なく心地いい。  今咲は俺の腕の中にいる。今だけは俺だけの咲だ。だからひとりじめ。  揉んでなでて突いて捻って摩って俺の背を指先や手のひらで愛撫しながらも、抱きしめた身体は俺の熱を共有し体温を上げていく。  酒、という言葉に反応して、咲の首筋にちゅ、ちゅう、と吸い付いた。  あ? 酒、欲しい。  酒欲しい、もっとほしい。  きっと咲と飲めば楽しいだろうと、思っただけだ。俺は単純な男だから。  唇を肌に滑らせ、たどり着いた耳たぶを唇で食む。アルコール臭い吐息を耳腔に吹きかけ、甘えたオネダリを囁く。

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