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14(side今日助)※
俺は女じゃないから、咲の彼女になんてなれない。どんなに抱かれても、咲の子どもを産んであげることはできないし、この国じゃ結婚だってできない。女性があげられる幸せは、なにも、なにもあげられない。惨敗だ。
でも、今……咲が抱いているのは俺だ。
ごめんな。
瞬きするほどの間でも、そんなことを考えてしまった自分に、吐き気がした。
はは、なんて浅ましいんだろうな。
だけどそれが、本気の恋だ。
「ぅあ、っ」
トン、と不意に中のしこりをカリ首でこそがれ、ビクッと身体が跳ねた。
肝が冷えて口元を手で覆う。
ふるふると首を横に振るが、完全には背後が見えないので咲の様子がわからない。
見えていたら、もしかするともっと必死に首を振ったのかもしれないが。
「ユキナちゃんも一緒に入る?」
「ッ、さ、っ……!」
とんでもない。ありえない。
せっかく彼女との会話が終わって丸く収まりそうだったのに、どうして、彼はいつも完成間際まで育てたパズルを気まぐれにひっくり返すのか。
思わず喉の奥が引きつった。
するり、と静かに俺の背をなぞる指。
肌の粟立ちを覚えて崩れ落ちそうな俺のことなんて気にもとめない咲は、彼女が頷き、ドアを開いてこの状況を目の当たりにしたって、構わないと思っているのだ。
少しでも刺激的に、少しでも愉快に。
理由なんてわからないが、いつだって危うい好奇心で誰でもを振り回す。
「ううん、もう遅いし眠いから、明日の朝にするわ……どこか行っちゃったかと思って、不安で探しに来ただけなの」
「そ? 残念……オヤスミ」
ゴクリと渇いた喉を唾液で湿らせると、やたら優しい声のおやすみが浴室に響いた。
ドアを開けることのなかった彼女が嬉しげに返事をして、足音が去っていく。
……助、かった。
完全に足音が消え、ようやく、張り詰めた呼吸を深く吐き出した。
湯気のたった浴室にいて、身体はともあれ心はすっかり冷え切っている。
ザァザァと騒がしいシャワーが止まっていれば俺の殺しきれなかった鳴き声なんて薄いドアの向こうへ筒抜けだっただろうし、彼女が乗り気になって浴室へ乗り込んできていたら俺は口汚く罵られていただろう。
それに、彼女だって無傷じゃない。
自分の愛する人が他の人と身体を重ねている光景を目の当たりにすることは、凍死しそうなくらい冷たい気持ちになるはずだ。
話で聞くことと現場を目撃することじゃ、知り方にも雲泥の差がある。
わざわざ傷つく方法じゃなくていい。
苦い息を吐ききると、入れ違いに咲の行為への困惑と焦燥感がこみ上げてきて、ほんの僅かな怒りを起爆剤に口内を滑り出した。
「惜しいなぁ。修羅場プレイもおもしろそうだったのに」
「バカ、そんなプレイないだろ……っ! なんであんな……っほんとに彼女が入ってきたら、俺も困るし……彼女もきっと、すごく傷つく……!」
「あ? それは関係ねーじゃん。それに俺はほんとによかったよ? 見られながらお前を抱いたってさ……だから怒んなよ」
「よくな、ぁ、あ……っん」
俺の背を見下ろし笑っていた咲は、カッとなって目くじらたてる俺を、威嚇する子犬をあやすように軽々とかわす。
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