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19(side翔瑚)※
男の精の香りで満ちた空間。
咲の指は時折耳の穴をクリクリと弄び、俺を快感の坩堝へ落としていった。
「ひっ、あ、っあぁっ……!」
腰がビクンッ、と弓なりにしなる。
突き上げに合わせてかぶりを振ろうと悶え泣きながら乱れるが、顔を逸らすことは許されない。
目を閉じるとテンポを早くされて、苦しいくらいに中イキを繰り返させられた。
俺が「なか、なかがいい」と強請るから、痙攣しヒクンヒクンとわななく肉襞をかき混ぜて、咲は熱い迸りを注ぎ込んでくれる。
中に出されると泣いて喘ぐだけの俺はいっそう震えてぎゅうと締めつけ、唇を噛んで戦慄くように感じた。
もう無理だ、と咽び泣いている。
なのにその瞬間は、孕むことのない空っぽの腹が、いっそ咲の種で膨れてほしいと下卑た心で祈る。
そんなことは有り得ないのに。
血縁や子孫なんかで、咲を縛りつけられるわけないのに。
それでもこの年下の酷い男が俺の体で感じて、俺の体で興奮しているとわかるから、俺はそれが好きだった。
「ン……ハッ……」
──あ……少し眉、寄せた……。
感じている咲。
かっこうよくて、でも、色っぽいな。
微かな声だ。目を見つめあってするなんて死ぬほど恥ずかしいけれど、咲のイク顔が見れるのは嬉しい。
俺の中でトクトクと脈打つモノが、熱を注いでいることがわかる。
一滴残らず欲しくて、根元から先まで包み込むように強く締めつけた。
咲からすると色っぽいどころか抱かれる顔も声も全部見せている自分の姿が見えていないのか? と呆れる思考だろうが、俺にとっては顔色の変わらない咲の呼吸が乱れるほうがもっとずっとやらしいのだ。
ユルユルと動きを繰り返すうちにまた中で硬くなると、咲は俺の目をしゃぶって「もっと」と言った。
「ひ……あっ……むり、だ……っ」
「まだ。ずっとしよ。あいしあいたい」
「んっ…ぁっ……咲、俺はもう、っさ、き……っさき……」
「ふつうにあいしあおう、ね……ショーゴ、かわいい。オマエの目玉が好き」
「あ……っぁぁ……っ」
役立たずの自身から出すものがなくなっても、咲はお構いなしに抱き続けた。
開発されて性の感応機と化した尻穴は、最早意識と切り離した一つの性具だ。
恐ろしい肉悦を知ってしまったものだ、と後悔することもできず、俺は咲の濁った瞳と視線を交わらせて、絶頂した。
何度も、何度も。
何度も、何度も。
「あっ……も、だ、めらって……これいじょうは、ひぬから…ぁ……」
「死なねーよ。ゆっくりしてあげる。だから付き合ってちょうだい」
「しぬ……へ、ぁ……ひゃ、え……」
「ショーゴ。優しくするから、痛くしないから、殺さないから、ちゃんとするから」
「あぇ、あ」
もう足を抱えることもできずに横たわるだけの俺の体を、咲は変わらない表情で味わう。
咲は離すことなく俺の頬を掴んでいた。
意識の朦朧とする俺の額に自分の額を合わせて、呼吸もままならずに唾液も飲み込めない俺の唇に、キスをする。
ぢゅる、と舌ごと溜まった唾液を吸われ、トン、トン、と上から潰すように突かれた。
「ショーゴは、心底かわいい。かわいいは思う。割とお前らみんな思うから本物」
「んぁ……ひゃひ……ん、んへ……」
「お前好きだわ。ホントだよ、ホント、根拠もあるぜ、聞いてて、ねぇ」
ショーゴ、ショーゴ、と咲が呼ぶ。
聞いてあげたくて名前を呼ぶけれど、舌が回らないし、うまく理解できない。
投げっぱなしの足が所在なく揺れる。
擦られすぎて充血した媚肉が捲れて痛い。指先がピク、と突き上げられるたびに反応する。
「俺、ショーゴが通り魔に殴られたら、その通り魔をコンクリートブロックで殴殺すると思う。たぶん。んでね、ショーゴの目玉、キレイだなって思うわけ。もしかしてこれって感動してるんだろ? 心があるから感動するんだよな。だからショーゴ、お前がきっと正解デショ」
咲は淡々とした普段通りの声なのに、どこか子どものように語る。
咲に返事をしたいのに、俺はとても気持ちよくて、意識が保てなくて。
「ぅん……すき…だ……さき……」
「ん、もう、おやすみ? ……うふふ。俺もスキ、ショーゴ」
そのまま視界が暗くなって、夢の世界へ沈んでしまった。
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