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話し合い
バキィッ!!!と凄まじい音が鳴った気がして重い瞼を上げる。ボヤけた視界に一番に入ってきたのは部屋のドアが無くなっている光景。
次に部屋の入口で仁王立ちして何かを見下ろす黒川さん。その視線の先には床で体を折り曲げて蹲る佐伯さんの姿。
佐伯さんはなんかとても苦しそうに息をしている。
「っ゛、っ」
「何したか分かってんのかって聞いてんだよ」
「も…しわけ、ございま、…っげほっ、…」
何?何が起こってんだよ。まだしっかり覚醒しない頭をできるだけフル回転させながら体を起こすと未だ仁王立ちしている黒川さんと目が合う。
俺を静かに見下ろすその目はいつもより真っ黒な気がして背筋にゾワッと寒気が走る。
「起きたか」
まるで蹲っている佐伯さんなんか見えていないように黒川さんは俺に話しかける。さすがに佐伯さんを無視出来ずにベッドから動けない。
「な、…殴ったんですか…」
「殴ってねぇよ」
笑いながら『少し蹴っただけだ』と言う黒川さん。
それで遅いがこの状況をやっと理解する。もしかして、もしかしなくても、また俺のせいだ。
昨日散々泣いたのにまた視界がじわっと滲む。
泣いたら駄目だ。泣いても意味が無い。
そう思っても俺の涙腺は壊れたままらしい。ボロボロと涙が出てきて借りたハーフパンツを濡らす。
「慰めてくれただけなのにですか…?」
「身体でか?」
「…なに言ってるんですか…そんなわけ…」
黒川さんは無表情で近寄ってきて俺の着ていたTシャツをぺろんと捲って何かを確認するように俺の体を見ている。
「どこまで触らせた」
「は…?」
「答えろ!!!!!!!!!」
室内にびりびり声が響く。鼓膜が破れるとかあながち冗談じゃないくらいの声量で怒鳴られ涙も引っ込んだ。
そしてじわじわ悔しさとか悲しさ、怒りや無力さが込み上げてくる。なんで話も聞いてくれないんだ。俺は黒川さん以外無理なのに。てか自分の事は棚に上げんのかよ。
「…うるさい!!お前だって理央と寝てたんじゃねーの!!!」
「あ?」
佐伯さんを睨むのを止めて俺を睨んできた黒川さんを突き飛ばして部屋を出る。階段を降りると突き当たりに朝からスーツ姿の凛堂さんが腕を組んで立っていた。その右頬には大きめの湿布、口の端には絆創膏を貼っている。
きっと黒川さんに殴られたんだろう。
あぁ、また俺のせいで誰かに怪我をさせてしまった。
「…凛堂さん…どいてください…」
「申し訳ありません。昨日の件もあって今日もやらかすと一時間後には首がありませんので。勿論、物理的にです。」
そう笑う凛堂さん。アハハ面白い冗談ですね〜なんて笑えるはずもなく固まっているとどこからか出てきたスーツの人に両腕を掴まれる。左右一人ずつだ。俺も馬鹿じゃないしこんなゴツい男二人に掴まれてもう逃げようなんて思わない。
「っ、…離してください……」
だけどやっぱり知らない人に触られるのは気持ち悪くて腕をバタつかせる。凛堂さんが片手を上げるとスっと拘束から解放されてよろける。それを後ろから支えてくれたのは黒川さんで、慣れたフェロモンの香りで安心するのが悔しい。
「帰るぞ」
帰るしかないのは分かってるけど何も喋りたくなくて俯いていると腕を掴んで黒川さんは歩き出す。
凛堂さんがスっと頭を下げたのを合図に周りのスーツさん達も礼をする。
そして押し込まれた車。駐車枠を無視した止め方で少しは急いでくれたのかな、とか期待してしまう。助手席に押し込まれ黒川さんも運転席に乗るとすぐに発進する。
黒川さんはてっきり怒ってるかと思ってたけどいつもより荒い運転の傍ら俺の手をずっと握っていた。
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