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玄関に入るや否や、やっぱり軽々と俵担ぎされる。
さっきと違うのは下ろされた場所が浴槽の蓋の上じゃなくてベッドの上だという事。
「…華、」
「…ぁ」
低く掠れた声で呟き俺を抱き締める黒川さんのスーツはまだ濡れていて罪悪感が膨れ上がってくる。
濡れてる黒川さんが俺を抱き締めてるんだから俺も濡れるのは当たり前だし、ベッドの黒いシーツも少しずつ色が変わってきている。俺こんなに濡らしちゃったんだ。黒川さん、なんで着替えてないんだろう。
「…ごめん。理央は、」
「まっ、て聞きたくない!!俺だけ見ててっ」
静かに喋りだした黒川さんを遮ると黒川さんは眉根を寄せてさっきより俺を強く抱きしめ頬擦りしてきた。
抱き締められたのは本当に久しぶりで黒川さんのいい匂いが思考回路を麻痺させる。思わず胸いっぱいに匂いを吸い込んでしまう。触れ合った頬から溶けていきそうだ。ずっとずっと俺だけがこの匂いや体温を独り占めできたら良いのに。そんなの叶わない気がするけど。
「理央はな、」
「…っ、」
イヤイヤと小さい子が駄々っ子するように黒川さんの肩口に額をぐりぐり押しつけると咎めるように肩を押し返され、強制的に目を合わせ黒川さんは喋り出す。
嫌だ、聞きたくない、。心臓の音がガンガン頭に響いて全身で聞きたくないのをアピールするけど黒川さんは止まってくれない。
「──ざっくり纏めるとこんな感じだ。」
話してくれた内容は余りにも俺の勝手な想像とはかけ離れていて少しだけ冷静になった。
「分かったか?」
そう言ってくる黒川さんに必死に頷く。勝手に勘違いして暴走した自分が恥ずかしい。てっきり理央は黒川さんの事が恋愛的な意味で好きなのかと思ってた。しかも理央はβだった。嬉しいとか思っていいのか分かんないけど正直とても嬉しい。黒川さんの周りで番になれるのは今のところ俺だけだ。まだ黒川さんの傍にいていいんだ。
「理央に気を取られてお前を蔑ろにして悪かった。話を聞かなかったのも悪かった。…端的に言うと妬いた。」
「…え?」
「凛堂に着いて行ったのも、焦って追い掛けたら親父とキスしてるみたいな体勢だったのも、今日の朝だって佐伯と同じベッドで寝てただろお前、俺…もう心臓が…」
「…いっぱい迷惑かけてごめんなさい…」
喋りながらどんどん項垂れる黒川さん。
改めて凄く心配をかけたんだと実感して自尊心がすり減っていく。本当は謝りたくなかったけど今回は俺が全部悪いので素直に謝る。
黒川さんは俺が謝ると『今ここにいるから良い』と言って俺の頭を撫でる。そしてベッドから下りて寝室を出ていこうとした。ちょっと待てどこに行く。
「ぁ、あっ、待って黒川さ、廉さん!」
思わず俺もベッドから下りて濡れたスーツの裾を掴んだ。
あ、皺になるかなとか気遣う余裕はない。
「ん?」
「仲直り…えっち…です」
振り返った黒川さんに意を決して言う。
そう。琉唯くんが言ってた『仲直りえっち』だ。俺は仲直りえっちしないと黒川さんと仲直りできないって琉唯くんから言われたんだ。だから絶対しないといけないんだ。
「…あ?」
「…さっき、あの、するのかな?って、思ってたから、やり直し的な、…」
しどろもどろになりながら言ってみるけど黒川さんの眉間にはどんどん皺が寄る。さっきまでの威勢は何処へやら俺はとうとうスーツから手を離した。
「…ごめんなさい、冗談で〜す」
気まずい…!気まず過ぎる…!慣れない事はやるもんじゃない!とヘラっと笑い誤魔化すがもう遅かった。
すぐに俺を抱き上げベッドに下ろした黒川さんはそれはそれはもうとてつもなくイイ笑顔でこう言う。
「積極的で何より。今日こそ最後までするからな」
俺の本能が危ないと叫んだ。
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