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「…ふふっ」
予想通り凄く面白い。クールな見た目の兄ちゃんがりんご飴を両手に持って歩いてるって超シュール。
しかも黒川さんだから面白さが倍増。ちゃんと自分のも買ってるし。
「ありがとうございます!」
「うん」
最初にりんご飴を買ってもらって、いくらそんなに欲しくなかったとはいえ持つと食べたくなる。けど食べ終わるのに時間が掛かるから後でって言われてぐっと我慢する。
人混みをゆっくり歩きながら、唐揚げ棒と箸巻きを買ってもらった。
黒川さんに全部買ってもらって申し訳ない。でも俺が財布を出そうとすると毎回人前でキスされそうになるので結局財布は仕舞うしかなかった。
あと少しで花火が始まる。
道端の花壇のレンガに腰掛けて黒川さんと一緒に唐揚げにかぶりつく。
「あっ、ち!」
勢いよく出てきた肉汁が熱くて熱くて舌と上顎がヒリヒリする。しっかりふーふーしたはずなのに。火傷したっぽくて感覚がない。
「見せてみ」
黒川さんにべーっと舌を出す。
すると何を思ったか黒川さんは俺の顎を掴み、そのままキスしてきた。しかもディープキス。痛いって言ってるのにしつこく舌を擦り合わせてくるし挙句の果てに甘噛みしてくる。
「ぅ、!」
もう痛すぎて涙目になる。火傷してなくてここじゃなかったら嬉しいのに!!!
周りにはいっぱい人がいるし痛いし恥ずかしいしもう何が何だかわからない。
「っいはい!、ぁ」
「痛い?」
うんうんと大きく頷く。痛くないわけが無い。
なんとか黒川さんの胸元をばしばし叩いて離れるがちょうど黒川さんの向こう側にいる人と目が合う。その人の顔は真っ赤ですごく申し訳なくなる。
…うわ…顔真っ赤だし絶対いまの見られてた…。
超絶気まずくて俯きかけたその時、腹の底に響くドーンと大きな音が鳴る。
「あ」
ひゅるるる〜と上がったあと、黒川さんのバックに咲く大輪の花火。
色んな色がチカチカと点滅したり、垂れ下がったり、中には丸じゃなくて星型とかハート型とかの花火も上がっている。
「黒川さん!綺麗です!!」
「あぁ」
何故か俺の顎を掴んだまま一旦停止していた黒川さんの腕を揺する。黒川さんは数秒俺を見つめたあと、振り返って花火を見だした。
「綺麗だな」
「綺麗ですね」
繋がれた右手にぎゅっと力を篭める。
好きな人と一緒に花火を見る日が来るなんて思いもしなかった。とても幸せだ。来年も再来年もずっと一緒に見られたらいいのに。
でもその願いを言ったら叶わないような気がしたから誰にも言わずに俺の胸に仕舞うようにした。
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