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《AKIRA》
今年もまた、春がやって来た。
春なのにまだ肌寒さが残る、3月。
今日の合格発表の確認を終えた僕達は、校舎裏の河原で待ち合わせの約束をしていた。
辺りには桜の香り。
僕の好きな香り。
香りを楽しみながら、ゆっくりと眼を閉じる。
あれから幾度目の春になるんだったっけ?
想いを馳せ
「10年‥‥か‥」
ぽつり呟く。
今から約10年前。
僕たちは『幼稚園』と言う名の『実験施設』へ入れられていた。
鉛の壁と硝子で出来た教室の中で、景色でしか四季を知る事が出来ず、遊ぶべき玩具でさえ超能力実験の一環にされていた。
そこは閉じられた空間
外部との接触を避け、一つの建物内で授業を受け、食事をし、寝起きする。
部屋は割り振り。
女子部屋と男子部屋とに分けられ、あらゆる所にカメラを設置され監視を受けていた。
風呂やトイレでさえ、監視カメラが作動しているという始末だ。
今にして思うと、ガンジガラメの状況下に苛立ちが募るのは、ごく自然な衝動だったのかもしれない。
『立ち入り禁止』
そう赤字で書かれた部屋は、そんな苛立ちから解消されたくて仕方なかった僕の興味を満たすには、十分な魅力を持っていた。
時間や曜日の感覚もすっかり無くなった頃にはもぅ、思い付いた自分を止める事も出来なくなっていた。
カメラの死角を辿り、部屋の数歩手前まで到着する。
ドアの鍵は、能力を使えば簡単に開いた。
カメラの位置を確認すると再び能力を使い一瞬だけ向きを変え、素早く部屋の中へ身を滑り込ませるとドアを締め、カメラを元に戻した。
「ふぅ。」
無事侵入出来た事に安心し、ドアに寄り掛かりながらその場にへたり込んでしまう。
「‥‥だれ?」
部屋に潜り込むのに必死で、まさか中に人が居るなんて考えもしなかった僕は、奥からの声に驚いた。
「‥あ、あの‥」
言い訳をしようと声の方へ顔を上げると、そこはまるで機械で造られた様な部屋だった。うまく説明は出来ないが、とにかく部屋全体に精密な機械が敷き詰められていたのだ。
よく見ると、その中心に設置された実験用ベッドへと、多様なコードが集中している。
『ジャラ。』
コードの擦れる音を立てながら、ベッドの中心に寝ていたらしい人物が身を起こす。
頭にもコードを付けた同い年くらいの少年は、美しい黒髪と切れ長の瞳を持ち、何より不思議な雰囲気を醸し出していた。
その彼がゆるやかに僕の方へと振り返り
「はじめまして」
と、柔らかな笑みを浮かべた。
その時の衝撃を、僕は今も忘れられない。
心の奥が雷に撃たれた様なあの感覚。
痛みが心臓から全身へ拡がりきると、今度は雷の落ちた箇所が発火し、僕の胸を焦がして行った。
それが僕と【アキラ】との出会い。
そしてそれが、僕の初恋の瞬間でもあった。
その後結局、僕たちの実験は失敗に終わり、莫大な資金をドブに捨てたと政治家は怒り、施設は壊滅した。
能力を使いこなせていたハズの僕たちも“増進剤”の服用を辞めると、途端に力を失って行った。
施設側からすれば、証拠湮滅も出来て都合が良かったに違いない。
まぁ、大人の事情なんかどうでも良いが。
施設が無くなった事によって、僕たちは自由になったと同時に、住む場所を失った。
元々両親が居なかったり望まれずに産まれた子供達の寄せ集めだった“施設”だ。
帰るべき場所なんて何処にも無い。
“とりあえず”と、一般の児童施設へ預けられる事になった僕たちは、全員がバラバラになった。
それでもアキラと離れたくなかった僕は、彼の手を固く握り締め、離さなかった。
そのお陰で同じ施設へと預けられ、僕とアキラは急速に距離を縮めて行った。
狭い世界の中ではあったが、僕にとってはアキラが側に居てくれるだけで幸せだった。
そんなささやかな幸せも、ある日養子縁組の話に突然ブチ壊された。
「嫌だ!!嫌だよ!!アキラぁ!!!」
かつて無いほど泣き叫ぶ僕を尻目に
「じゃぁねタカシ。」
と、アキラは初めて出会った時の様にゆるやかに微笑むと、新しい両親に手を繋がれ、一度も振り返る事無く施設を後にした。
それから数日後、僕宛に手紙が届いた。
差出人はアキラ。
内容は、生活の状況と両親への感謝と。
“タカシに会いたい”と言う物だった。
嬉しさと、会いに行けないもどかしさに苛 まれる中、僕も返事を書き、文通が始まった。
それから数年後。
幸運な事に僕にも養子縁組の話が舞い込み、アキラと同様、普通の暮らしが出来る様にまでなり、携帯も持てるまでになった。
まだ未成年だから、色々と直接行動は起こせなかったが、アキラには『同じ高校を受験しよう』と話を持ち掛けた。
高校受験の日。
時間は掛かったが、ようやくアキラに逢えると言う喜びに、前日はろくに眠れなかった。
「タカシ?」
ふいに声を掛けられ、振り返る。
「アキ‥ラ?」
そこに立っていたのは
“美麗な少年”
昔と変わらぬ黒髪と切れ長の瞳に安堵しながらも、昔とは違う細く長い手足と、色香を伴う艶やかな肌に眼が眩んだ。
「久しぶり」
柔らかな笑みも変わらない。
「うん。」
メールや電話じゃあんなに饒舌 な僕が、まるで初めて恋したあの日の様に、心臓が高鳴りまともに眼も合わせられない。
そんなガキみたいな自分に腹が立った。
「今日は、お互い頑張ろうね!」
アキラ、は、元気だった。
元気に“振る舞っていた”のだ。と知るのは、それからだいぶ後の話になる。
「タカシ!」
声を掛けられ、現実へと引き戻される。
あの初めての出会いから10年が過ぎようとしている、現在へと。
「アキラ。
結果どうだった?」
頭の良いアキラの事。本当は結果なんか聞かなくても分かりきってる。
「合格!!これで誰にも気兼ねしないで逢えるね!」
「あぁ。」
嬉しいくせに、つい無愛想になる自分。
本当は、こんな態度を取る気なんて全然無いのに‥‥‥
「‥タカシ?大丈夫?元気無いね‥‥」
アキラに顔を覗き込まれ、後ずさる。
アキラが近付くだけで焦る。心臓が高鳴る。躯が、熱くなる‥‥
こんなの。
こんなの知られたら。
きっとアキラは、警戒する。
気持ち悪がる。
アキラに、嫌われる‥‥
怖
い
!!!!
それだけで、僕は突然言葉も発せなくなってしまった。
「タカシ‥‥」
そんな僕を、哀しそうな眼で見つめる。
嫌いじゃないのに。
避けるのは、逃げだ。
僕に、意気地が無いからだ。
分かってる。
頭では分かり切ってるのに、身体が、心が、言う事を聞いてくれなかった。
「‥‥タカシ。ちょっと来て。」
そんな僕を見兼ねてだろうか、アキラが手を引く。
「どこに‥‥」
なんとか音に出して問いかける僕の言葉を
「良いから!」
と、遮る。
怒ってる‥のか?
あのアキラが?
アキラの怒った姿なんて初めて見る。
何を考えてる?
何をしようとしてる?
一度も僕の方を振り返る事無く、ずんずんと歩を進めるアキラの後ろ姿が不安を煽り、その態度とは裏腹な、繋いだままの手に恐怖を覚えた。
向かった先は、学校裏の木造の建物。
多分昔は技術室にでも使っていたんであろうと思わせる外装だが、今は不要備品入れになっている様だ。
その建物の裏口へと回り込むと、錆び付いた小さなドアが一枚、目立たずひっそりと存在していた。
そのドアノブを回そうとして動きが止まる。
『ガチッガチッ』
と言う音は、僕達に鍵が掛かっている事を訴えていた。
「鍵掛かってるよ。
止めよう?」
言い終らない内に
『カチリ』
とノブから鍵の外れる音が響く。
「えっ!?」
驚く間も無く、ノブを回しズカズカと中へ入って行くアキラに、胸がザワついた。
埃臭い部屋の中。
「今のチカラ‥‥」
不安の様な、胸騒ぎの様な。不確かな疑問をぶつける。
「超能力‥‥?」
僕達が、とっくに無くしたハズの‥‥
「そうだよ。」
間を空ける事無く、肯定を返す。
「僕だけ、チカラが強かったんだろうね。
だから僕だけは部屋も隔離されていた。
そう考えると、全て納得が行くだろう?」
感情を込めない言い方に、背筋が凍る。
もしかしたら今まで心で思っていた事も、全て読まれていたのか‥‥?それで急に怒ったのか‥‥?
不安が心を占め、渦巻いて行く。
「心も読まれてるのか不安になってる?」
アキラの言葉にハッとする。
「もしそうなら、どうする?
タカシの考えも感情も全部筒抜けだったとしたら?
入試も他人の心を読み取って、合格したと言ったら?
僕を、軽蔑するかい?」
言葉では脅す様に話しながらも、表情はどんどん曇って行き、涙目になっていた。
本人に、自覚は、無いみたいだ。
「軽蔑なんか‥」
言いかけたが、アキラの零した美しい涙に見とれてしまい、言葉を失った。
「なんて嘘。
そんな訳無いじゃん。鍵を開ける程度のチカラしか残ってないよ。そうじゃない。そんな事を言いたいんじゃなくて‥‥」
震える口唇から、小さな吐息が漏れる。
自分の中の恐怖と闘っている様にも見えた。
「タカシは、僕の事どう思ってるの。」
語尾が、震える。
「どう、って‥」
アキラの緊張が伝染したのか、僕の心音が大きく響き始めた。
アキラの質問の答えにきちんと当てはまる言葉を探し出そうと、無言になる。
それと同時に、沈黙に耐えられなかったアキラが、僕を体操用マットの上へ押し倒し、口唇を重ねた。
唐突の出来事に唖然とする僕の頬に、アキラの涙がパタパタと滴を垂らした。
「僕だけなの?
僕だけが、こんなに苦しかったの?
タカシも、同じ気持ちだと思ってた。
タカシも、こうしたいんだと、思ってたのに‥‥!」
激しい感情。
アキラの内側に、こんな感情が隠れていたなんて。
驚きと嬉しさが、熱くなった胸から全身に拡がって行く。
僕の胸に熱を与えたアキラの勇気を想えば、もう、怖いなんて言ってられない。
「アキラ」
言いながら、アキラの頬を両手で包む。
少し驚いた風の、愛らしいアキラの顔を間近に見ながら、親指の腹で涙を拭った。
「僕も、同じだよ。
僕も、アキラを想ってここまで来た。
ずっと、アキラが欲しくてたまらなかったんだ‥‥」
驚いたアキラの顔が、赤みを帯びて行く。
その事が、アキラの色香を更に際立たせた。
「アキラ、好きだよ」
ようやく言えた言葉。
たったこれだけの言葉なのに、今までずっと言えなかった。
たった二文字ぽっちの言葉が、なんて重かった事か。
僕の大切なアキラ。
熟れた口唇に、今度は僕から口付けた。
触れるだけのキスを幾度もくり返し、徐々に舌を絡めて行った。
甘い蜜の様な味を味わいながら、押し倒されたマットにアキラを引き寄せ、そのまま形勢を逆転させた。
「もう、自分を抑えるのは辞めるよ。不安にさせてごめんね。」
言うなり、口唇を重ねる。
アキラは僕の背中に手を回しながら、キスの合間に小さく何度も『うん。うん。』と頷 いた。
口唇から発した熱は、一気に下半身まで駆け抜け、ズボンの内側で膨張して行く。
微かな摩擦の痛みを堪えながら、アキラの上着をはぎ取った。
「タカシ‥‥
恥ずかしいよ‥‥」
頬を染めながら顔を背けるアキラが、誘っている様にさえ見える。
「アキラ‥‥
綺麗だよ‥‥」
紅潮した肌が、僕を誘う。
胸の桃色の小さな突起へと手を延ばし、片方へは舌を這わせる。
「‥‥ぁ」
小さく零れる吐息が、僕の理性を吹き飛ばした。
胸からお腹へ、そして更にその下の下腹部へとキスを降らしながら降りて行く。ズボンの上からでも分かるアキラの膨らみは、軽く口唇で挟んだだけでも敏感に反応を返し、堅さを増した。
「‥‥ゃ‥恥ずかしい‥恥ずかしいよ‥」
少し涙目のアキラを見上げ、その艶 やかさに目眩を起こしながらも、ウエストのボタンを外し、ジッパーを下ろすと同時に、下着をズボンごとずり下ろした。
目の前には、桃色をしたアキラの自身。
その先端からは、快感を意味する雫が滴 り落ちていた。
「アキラ、感じてるんだね‥‥可愛い‥」
滴り落ちた雫を下から舐め上げ、先端の溝を舌先で擦る。
「アッ!やぁ‥」
躯をヒクつかせ、マットに爪を立てるアキラを見ると、全身で感じてくれているのが分かり嬉しくなる。
もっと悦ばせてやろうと、そのまま先端から口唇で扱 いて行く。
「ア。アぁンンッ」
アキラの可愛らしい声を聞く度に、興奮で僕の自身も反応して行くのが分かる。
先走りと僕の唾液でズルズルになったアキラの自身を更に扱きながら、僕の自身も自分で取り出し、指で扱いて行く。
「ふ。はぁ‥」
興奮と快感で朦朧とする中、口の中でアキラの自身がビクビクと何度も脈打った。
ドクドクと流れ込む液体を飲み干しながら、同時に自分自身も絶頂を迎え放出する。
放出した体液を掌で受け止めるが、快感よりもアキラと一つになりたかった僕は、息切れするアキラをよそに、今度は自分の体液が付いた指で、アキラの最奥を撫で付けた。
「はぁ。あぁッ!」
一度絶頂を迎えた後の躯は更に感度を増し、敏感になる。
「アキラ‥‥
僕達、一つになろう」
言うなり指を根元まで沈め、内壁を擦る。
「ひぁッ!ンッ!ゥンンッ!」
波打つ様に躯をのけ逸らせるアキラ。
痛みなのか快楽なのかも理解出来ていないのかもしれない。
かく言う自分も余裕なんか全く無く、アキラの内部を何度も掻き回しては抜き差しを繰り返し、ほぐしてあげている間も、脳が溶けてしまいそうになっていた。
「は。ァン。タ、カシぃ‥」
アキラも、同じなのかもしれない。
ぼんやりとした頭でそう考えながら
「行くよ‥」
小さく囁き
「ん‥‥」
アキラの中に身を沈めた。
「ンあ‥ッ!!!」
思ったよりすんなり根元まで飲み込むアキラの躯に、違和感を覚える。
「タカシ!タカシぃ~‥!」
僕の名を呼びながら、背中に爪を立てる。
痛みと言うより快楽に溺れる表情を見せるアキラに、胸が空く。
馴れてる。
そう感じつつも、アキラの躯の気持ち良さに夢中でしがみつき、激しく腰を打ち付けた。
ほどなくして迸 る熱をアキラの体内へと放出し、果てる。
「はぁ。はぁ。はぁ」
汗と体液とでベタつきながら、息が整うまでしばらくアキラの上で休んでいた。
「アキラ‥‥
初めて‥‥じゃ‥ない
‥よね?」
アキラに覆い被さる様に抱き付いたまま、不安に思った事を恐る恐る口にする。
「‥‥‥‥。」
すぐに返事出来無かった事が、肯定に聞こえた。
「‥ごめんなさい」
微かに聞こえるくらいの、小さく消えそうな声。
「でも、心だけはタカシの物だから。
嘘じゃないから!」
必死な表情に、嘘は感じられなかった。
「大丈夫だよ。
僕は、アキラを信じるから。
これからはもう、アキラは僕の物だよね」
泣きそうなアキラの顔を優しく包んでやり、キスをする。
「うん。うん。」
頷くだけで精一杯だったアキラの眼から、涙が零れて行った。
愛しい愛しいアキラ。
これからは僕がアキラを守って行くんだ。
そう心に誓うと、再び口唇を重ね合わせた。
アキラ、は。
養父に性的虐待を受けていた。と、後に知る事になる。
それでも僕は、アキラを守りきると約束し、養父から解放させるべく闘い続ける日々を、自ら選んだのだった。
全てはアキラのために‥‥‥‥
~fin~
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