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【デジャヴ】
初夏。まだ、肌で感じる暑さも、日差しも弱い頃。
僕はよく知りもしない、しかも同性と一緒に海辺にいた。
お互い一人だった事もあってか、どちらからともなく声を掛け、
同年代という事もあり、話が盛り上がった。
同じようなテンションと、同じような価値観が、
まるで昔からの親友みたいで、素直に楽しかった。
時間も忘れてハシャイでいるうちに、日が暮れていく。
「あ。」
彼の言葉に顔を上げると、一点を見つめたまま動きが止まっていた。
つられて視線の先を追うと、真っ赤な夕日が海に沈んでいく所だった。
「すげぇ綺麗・・・。夕日が海に溶けてくみたいや。
空も海も混ざり合って、まっかっかやな。」
「あぁ・・・。本当だ・・・。」
彼に言われるまで、夕日をそんな風に捉える事はなかった。
意外にロマンチストなんだなぁ、なんて、ぼんやり思う。
「なんか・・・俺達みたいやな。」
彼の言わんとしてる事がイマイチ理解出来ないまま、今日始めて会ったばかりだというのに、
まるで、今目の前にある空や海と変わらない、鮮やかな笑顔に釘付けになった。
「・・・お前も。」
「え・・・」
「お前も、夕日とおんなし色や。
あの太陽みたいに、俺の前から消えんとって?」
言いながら、僕の濡れた髪を優しく撫で、そっと頬に触れると、そのままゆっくりと口付けた。
今日始めて会ったのに。
同性同士なのに。
ちっとも嫌じゃなかった。
静かに眼を閉じると、鼻腔を潮の香りがくすぐった。
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気だるさを感じながら眼を開くと、そこは自分の車の中だった。
「あれっ!!???」
辺りを見回すと人気は無く、日も落ち、すっかり暗くなっていた。
「・・・夢・・・?」
今日は一人でドライブをしていた。
そして急に海が見たくなり、それから・・・
「いつの間にか、眠っていたのか・・・」
眠気の残る頭を起こそうと額に手を当てた時、手のひらから砂が零れ落ちた。
「???」
海は見たいと思ったが、車からは降りていない。
それじゃぁ・・・今の夢は・・・???
そっと口唇に指を当て眼を閉じると、彼の口唇の感触を思い出す。
丁度同じ頃。
自宅の和室で眼を覚ました彼が、腕に付いた砂を、愛おしそうに握り締めていた事を
お互い知る由も無かった。
もちろん、数年後、同じ海で再会する事も・・・
~Fin~
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