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【クリスマスプレゼント】

「サンタさん。僕の想いを、ご主人様に伝えさせてください。」 ちいさな仔猫が、お月様を見つめながら目を潤ませました。 そう。今日はクリスマス。サンタさんが子供たちに、プレゼントをくばる日です。 仔猫の『みぃ太』は、雨の日にずぶ濡れで泣いていた自分を、そっと抱いて家まで連れて帰って 優しく暖めてくれた「ケンタ」が大好きでした。 “ケンタ好き~” 「みゃ~」 「よしよし」 “大好きぃ~” 「みぃゃぁ~」 「何?お腹空いた?」 何を言っても、僕の言葉は伝わらない。 “好き”って気持ちが伝わらない。 ケンタはいつもにこにこして、僕を撫でるばっかりで。 だけどそんな笑顔も、優しくて大きい手のひらも大好きだから 僕はつい幸せになっちゃうんだ。 僕ばっかりが幸せになっちゃうんだ。 幸せなはずなのに、みぃ太は少し悲しい顔をしました。 ケンタは事故で両親を亡くしてから、ずっと一人でした。 みぃ太を飼うようになってからは、仕事が終わってからもすぐ帰ろうと 『付き合い』を断っていくうちに、どんどん一人になってしまいました。 ケンタは『それでも良い』と言っているけれど、やっぱりどこか寂しそうなので みぃ太も寂しい気持ちになるのでした。 「僕がずっと傍に居るよ。一人なんかじゃないよ。」 そう言って抱き締めたいのに、みぃ太のちっちゃい手では、膝に手を乗せるので精一杯なのです。 「だからサンタさん。僕にケンタを抱き締められるだけの体をください。 大好きを伝えられるだけの、言葉をください。」 もう一度月に向かってお願いをすると、窓が“カタン”と音をたてました。 「なんだ!?」 驚いて身を縮めていると、上から夜中には派手すぎる真っ赤な衣装を纏った、若い人間が逆さまに顔を覗かせました。 「もしかして、サンタさん!?」 その姿は、TVで良く観るサンタの格好によく似ています。 「キミかい?俺を呼んだのは?」 サンタさんがそう言うと、窓に掛かっていた鍵が勝手に動いて、鍵を開けてしまいました。 「本物のサンタさん?」 まだ信じられなくて、目をぱちぱちしていると、サンタさんは開けた窓から中に入って来ました。 「そうだよ。今日はクリスマスだろ?なのにじいちゃんときたら急にぎっくり腰になってさぁ。代わりに孫の俺が呼び出されちまって、今プレゼントを配っていたら、こんな遅い時間なのにサンタを呼ぶ声が聞こえたんで覗きに来たんだ。そしたらキミが居たって訳さ。」 よくしゃべるサンタだなぁと思いながらも、今はそれどころではありません。 みぃ太は、自分のお願いを聞いてもらおうと必死なのです。 「本物のサンタさん、お願いです!僕を人間にしてください! ケンタの傍に、ずっと居てあげたいんです!!」 「うぅ~ん。」 そのサンタさんはしばらく考えるような格好をして、じっとみぃ太を見つめました。 「なるほど。そぅいう事か」 何かを見つけたように一つ頷くと 「よし。俺がその望みを叶えてあげよう。ただし、俺はまだサンタ見習いだ。失敗してちゃんと人間の姿になれなくても、文句はナシだぜ。それと、これはかなりのエネルギーが必要なんだ。これから先のお前の“クリスマスプレゼント”や“奇跡”を、一生分使うかもしれない。それでも良いか?」 深刻な表情で確認するサンタさんに、みぃ太は力強く頷きました。 「オーケイ。良い覚悟だ」 そう言ってサンタさんは手袋を外すと、みぃ太の頭を1つゆっくりと撫でました。 するとみぃ太の体はぐんぐん大きくなり、美しい少年の姿に変わりました。 「キミは人間にすると17歳くらいだから、その年頃の姿にしておいたよ。 それじゃ、後はキミ次第だ。精一杯頑張んなよ?」 言い終えると同時に、サンタさんは窓枠をくぐり抜け、外で待たせていたトナカイのソリまで 空を歩いて行きます。 「サンタさん!!ありがとう!!!!」 みぃ太は、サンタさんのソリが見えなくなるまで手を振り続けました。 サンタさんを見送ると、早速ケンタの寝室へと向かいます。 でもリビングの時計を見ると時間はまだ午前2時。 今ケンタを起こしてしまうと、きっと朝が辛くて、会社でも眠くてしかたなくなってしまうかもしれない。 そう思い止まって、みぃ太はケンタを起こすのを我慢する事にしました。 我慢して、いつもするみたいにリビングのソファの上に上って、ぐるりと器用に丸まります。 本当は、今すぐ起こして抱き締めて「好き」って言って。それから、いつもケンタがしてくれるみたいに、 キスもしたいなぁ。 みぃ太は、ケンタが起きて来てからの事が楽しみで、わくわくして全く寝付けません。 まだ3時・・・。まだ4時・・・。 時間が過ぎるのが待ち遠しくて、うずうずします。 「ケンタぁ」 時々、人間の言葉で名前を呼んでみたり。 どきどき。どきどき。こんなに心臓が早く鳴るのは初めてです。 どきどき。どきどき。どきどき。どきどき。 そうしているうちに、いつの間にか疲れて眠ってしまいました。 - 翌 朝 - 「うぅ~ん。みぃ太おはよぉ~」 ケンタが伸びをしながら起きてきました。 ふと、いつもみぃ太の寝て居るソファへと目をやると、誰か眠っています。 「誰!!?泥棒!!?」 驚いて身をすくめていると、その人物が目を覚ましました。 「んあ~~~。ケンタ。おはよぉぉぉう」 眠い目を擦りながら身を起こしたその少年を見て、ケンタは一瞬固まってしまいました。 なぜならその少年には、猫の耳と、しっぽが付いていたのです。 そう。やっぱりサンタさんの魔法は、完全ではなかったのでした。 「あれ?ケンタ?ちっちゃくなった?」 言いながら小首を傾げる仕草を見て、ケンタはハッとしました。 この仕草。甘えるような話し方。そして自分の名前を知っているこの人物が、もしかしたら『みぃ太』かもしれないと、非現実的な事を考え始めました。 「まさかね」 そう思いながらも、少年から感じる雰囲気は、いつもみぃ太から感じるそのままです。 「アッ!そうか!僕、サンタさんに人間にしてもらったんだった!ケンタ見て見て!!僕、人間になったんだよ!僕の言ってる事分かる!?ケンタ!大好き!!!!」 まくし立てるように一気に言うと、少年はケンタに抱き付いて来ました。 「やっぱりそうなの?みぃ太なの?」 「うん!僕だよ!ケンタ!大好き!僕がずっと、傍に居るね!」 びっくりしながらも、自分に抱き付いて頭をこすり付ける様に摺り寄せてくる様子は、やっぱりみぃ太の姿そのままで、ケンタはようやく“彼”が『みぃ太』だと確信しました。 「ケンタ!大好き!」 みぃ太はずっと同じ事を繰り返します。 「ずっとね、ずっと伝えたかったんだよ!“大好き”って!“ずっと側に居るよ”って!」 目を逸さず、真直ぐ自分の方を見て“好き”と言われたのは、いつ以来だろう? みぃ太はいつも、こんな風に自分の事を想っていてくれてたのか。 僕は、独りぼっちなんかじゃかなったんだね。 色んな気持ちが湧き上がって来て、ケンタは泣き出してしまいました。 「ケンタ!?どうしたの?どっか痛いの?」 普段からほとんど泣かないケンタが泣き出したので、みぃ太は心配でなりません。 どうすれば良いか分からないまま身を寄せると、涙を舐めて、拭き取ってあげました。 「大丈夫だよみぃ太。人間はね、嬉しくても涙が零れるんだ」 軟らかく微笑むケンタに、ようやく安心すると 「ケンタが嬉しいと、僕も嬉しくなるんだ。ケンタが悲しいと、僕も悲しいんだよ?不思議だね」 そう言ってみぃ太は、ケンタの口唇にキスをあげました。 いつもと違って、柔らかな口唇の感触は、ケンタの心臓をドキドキさせました。 「みぃ太。大好きだよ。今までも、これからも。」 そう言って、ケンタもみぃ太にキスをします。 朝からお互いにドキドキしながら、幸せになる約束のキスを交わした二人は、その後も本当に幸せに暮らしましたとさ。 おしまい。

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