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【桃太ロス】

むかぁ~し~むか~しの~こと~じゃっったぁ~・・・ ある所に、『キンじじ』と『リュウじじ』と言う、それはそれは仲の良いホモじじ夫夫(ふうふ)がおったそうな。 二人は常々「男同士じゃ無理だけど、子供が欲しいなぁ」と思っておりました。 そんな二人を見ていた“昴神様”は「Loveホモには幸せになって欲しいじゃんw」と言って、二人に子供を授ける事にしたそうな。 ある日の事、いつも通りキンじじは山へ芝刈りに。リュウじじは川へ洗濯に向かいました。 「洗濯なんて面倒くさぁ~い☆」 いくつになっても我儘なリュウじじでしたが、サボるとキンじじに怒られるのでイヤイヤ洗濯をしていると、川上から大きな桃が“どんぶらこっこ”と流れて来ました。 「イェイ☆今日のデザートだぁ☆大きくて美味しそぅw」 そう言うとリュウじじは、洗濯も忘れてサッサと家に持ち帰り、キンじじの帰りを今か今かと待っていました。 「ただいま」 「くまちゃん!コレ見て~!僕が見つけたの☆今日のデザートだょw」 常識では、拾い物はお腹を壊す恐れがあるので食べないのですが、キンじじの腹は異常に丈夫なので、ためらいもせず「旨そうやな!でかしたリュウ!」と、リュウの頭を撫でて褒めてあげました。 「えへwだから洗濯物忘れて来たのは許してねw」 「忘れた!?ホンマお前は・・・;」 とは言うものの、リュウじじにはめっぽう甘いキンじじなので、川に忘れて来た洗濯物は食後に一緒に取りに行くと言う事で話は収まりました。 「ご馳走さま。さて、アレ食うか!!」 楽しみに取っておいた桃を食べようと、リュウじじより先にキンじじが包丁を持ち出し、てっぺんにほんの少し切り込みを入れると、あとは勝手に真っ二つに割れ、中からそれはそれは元気な男の赤ん坊が現れたのでした。 「え!?赤ちゃんだ!」 「なんや!!桃やなかったんかい!!」 リュウじじは喜び、キンじじはほんの少し残念がりながらも、二人に訪れた嬉しい出来事を一緒に喜びました。 「名前付けてあげなきゃね☆」 「せやなぁ。 桃から生まれたから、桃太ロスでえぇんちゃうか?」 と言う安易な理由で、赤ん坊は『桃太ロス』と名付けられました。 桃太ロスは桃から生まれただけあってマトモな子供ではなかったらしく、みるみるうちに成長し、可愛らしかった時期はアッと言う間に過ぎ去り、サクッと成人してしまいました。 その頃ちまたでは『鬼』が現れ、金銀財宝や若い娘がさらわれていると言う話が広まっている。と、町に買い出しに行ったキンじじが耳にして来ました。 「そいつは本当なのかジジイ!?」 キンじじとリュウじじの愛情を一身に受け、我儘放題に育ってすっかりガラが悪くなってしまった桃太ロスが、口悪く聞き返します。 「んむ。何でも“鬼ヶ島”っちゅう島に住んどるらしい」 「オッシャ!いっちょ一暴れして来っか!」 言うなり、家を飛び出そうとする桃太ロスの首根っこをキンじじがとっ捕まえて 「あほぅ!旅の仕度ぐらいしてかんかい!」 と大声で、叱りつけました。 さすがの桃太ロスもキンじじは恐いのか、小さく 「‥‥おぅ」 と返事を返し、翌朝出立する事にしました。 「んじゃ。鬼なんて俺様がブっ飛ばして来っからよ!」 「うん!頑張ってね☆」 「島は残しといてやれよ」 などと恐ろしい会話を交わしつつ、キンじじのくれた鎧を身に着け、リュウじじの作ったキビ団子を(たずさ)え、桃太ロスは鬼ヶ島へと向かいました。 道中、キビ団子目当てに集まった “いぬ” “さる” “きじ” を従え鬼ヶ島へと上陸すると 「手前ェらか!町で悪さしやがってんのは!俺様が成敗してやる!!!!!」 そう怒鳴り散らし、前触れも無くいきなり襲い掛かって行きました。 「行くぜ行くぜ行くぜ~~!!!!」 桃太ロスはとても楽しそうです。 「何なんだアイツは!」 桃太ロスとは対照的に、いきなり襲撃された鬼達は不意を突かれたせいか、押され気味です。 「頭領!!敵襲です!」 そうこうしているうちに、城の中で女子とイチャついていた頭領に伝令が届きます。 「何だって?折角イイ所なのに、邪魔しないで欲しいなぁ」 シレッとした態度で玉座から立ち上がると、仕方なく階下へと降りて行きます。確かに外が騒がしく、叫び声と悲鳴が響いていました。 「もぅ。野蛮だなぁ」 鬼の頭領は溜め息混じりに呟くと、戦闘の中へ踏み込み、敵を探しました。 と、その時。 「ぅわぁ!!」 油断した敵が吹き飛ばされて、頭領の方へぶつかって来ました。 「おっと。」 咄嗟に支えると 「わり」 と、敵が振り返ります。 「ゎ。可愛い‥」 「‥はぁ!?」 戦いの中での予想外の言葉に、桃太ロスは思わず固まってしまいます。でも、どうやらそれだけでは無い様です。 「つぅかお前鬼だろ!敵だろ!ブッ殺してやるから覚悟しやがれ!あと、離れろ!」 言葉は悪いけど本気で殺す気は無いらしく、赤くなって照れながら、ただジタバタするだけでした。 落ち着きなく腕の中でバタバタするその敵が、無性に欲しくてたまらなくなった頭領は 「キミがここに残ってくれるんなら、女の子もお金も、全部町に返してあげるよ」 そう言ってにっこりと微笑みます。 「へ!?なんだそりゃ?つぅかマジ近いっつの!!」 益々照れながらも、一目惚れした相手からの熱烈な申し出を断る理由も無く 「本当だな!!? 本当にもぅ悪さしねぇな!!??」 と念を押すと、イヌ猿キジに宝と女の子を引き連れさせて、町に帰しました。 自分一人、鬼ヶ島に残って。 「寂しい?」 そう訪ねる頭領に 「アンタが居るから良い」 と、照れて眼も合わせず答える桃太ロスの肩を抱き 「人間界で暮らすよりも、ココに残った方がずっとずっと幸せだったって思って貰える様に、一生モモを大事にするからね」 そう言っておでこに口付ける頭領でしたが、『もぅ十分幸せだけど』と思っている桃太ロスの本音を聞くまでには、あとほんの少し時間が掛かったのでした。 そうして、なんだかんだで二人は末永く幸せに暮らしましたとさ。 めでたしめでたし。

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