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第90話
「駅まで送る」
「平気だよ。
道、分かるし」
「少しでも長く一緒にいてぇんだよ」
ドキッとする台詞をさらりと吐いた長岡。
本当に恋人は格好良くて困る。
心臓がドキドキして壊れそうだ。
予備がいくつあっても足りない。
「……じゃあ、お言葉に甘えさせてもらう…」
「おう」
階段を降り、階下へと足を付けると小さな陰が動いた。
ニャー
「蓬ちゃん、手洗いするから待ってね」
ニャァ
尻尾をピンっと立て後ろをついてくる子猫は、三条が手洗いをする為に洗面台で立ち止まると今度は身体を擦り付けてきた。
まるで飼い主のにおいの上からマーキングするように。
「可愛いね」
「ほんと、遥登好きだな。
やんねぇぞ」
「対抗心、抱いてくれるんだ」
「当たり前だろ。
遥登は俺のなんだから」
「へへっ。
嬉しい」
「よも」
ちゅっ
唇に触れるやわらかな感触にクリクリした目を真ん丸くする。
「っ!!」
「いーだろ。
羨ましいだろ。
俺のだぞ」
こてん、と額をぶつけられみるみる内に顔が赤くなっていく。
本当に、恋人は自分の顔面偏差値の高さを理解していない。
それからも蓬に対抗心を燃やす長岡からの甘い言葉を受け取りながら、帰り支度をし、一緒に家を出た。
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