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第1話
金がない。と言うか、仕事がない。
「困った……」
どうしよう…………。
俺、桃野比呂(ももの-ひろ)は只今失業中で、加えて家の家賃も払えてない状態だ。
これは追い出されるのも時間の問題。泣いて置いてもらうか、さっさと逃げ出すか。それが問題だ……。
逃げ出すにも逃げる場所がなければどうしようもない。友達にはもう散々何かと借りたりしてるので、これ以上何か言えば絶交されるのは目に見えて分かっている。だとしたらどうするっ……。
困った俺はこのまま家にいれば絶対に大家さんが来るのは分かっていたので、本当に本当にいる最低限のものをポケットに突っ込むと家を出た。
時間は午後三時。もう少し経つと薄暗くなってきてしまう。今の時期外で一晩過ごすのは寒くて嫌だ。と言うか、これから先家がなくなったらそんな毎日が待っているかと思うと体が震える。
「あー、さっさと何か仕事探さないと」
ポケットに詰め込んで来たのは携帯の充電コードと貯金通帳の類。それになけなしの現金を手に、俺は自分の家を出た。
そしてフラフラとさまようこと数時間。気が付いたら何だかよく分からない場所に来ていた。
「…………」
終電はもうない。そして今、俺は非常に寒いっ!
「うううっ…………!」
防寒着は着ているが寒いものは寒いっ! もうこれ以上路上にいたくないっ‼ と思った時、ビルの角から奴は現れた。
「ぅぅぅっ……寒っ」
ドンッと肩が当たって「ぁ、ごめんっ」と言いながら顔が上げられる。
「あれ?」
「なに」
「あんた…………」
「なに」
「俺に抱かれたくない?」
「は?」
突拍子もないことを言われて素っ頓狂な声しか出なかった。だけど相手は「だよ」と譲らず、加えて俺の体の限界もあって奴の住まいへと向かうこととなった。
歩いて数分。もう凍える寸前で相手の家に着く。だけど奴はすぐにはドアを開けてくれなくて、再度問われた。
「俺に抱かれる?」
「ぁ……ぅん…………」
「俺に抱かれる?」
「うん。だから早く家に入れて」
「……分かった」
そういうやり取りがあって、やっと家の中に入れてもらえた俺は心底ホッとした。
「ぅぅぅぅぅ…………」
風がないだけで、こんなにありがたいなんて…………。
まだ暖かくもない部屋なのに単純に嬉しい。
「腹は? 減ってない?」
「減ってますっ!」
「そっか。じゃあ夕食から始めようか」
彼の名前は笹北喜世(ささきた-きよ)。19歳。俺よりも年下だった。そして見た目もすごく可愛かった……。なのに俺が抱かれるって? それはちょっと冗談としか思えなかった。
「苦手なものはある? ピーマンとかニンニクとか」
「別にないです」
「じゃ、手っ取り早くナポリタンでも作ろうか」
「はいっ」
何でも良かった。とにかく今は腹が減っているので居場所と腹が満たされれば「どうにでもなれっ!」と言う気持ちだった。食事が出来るまで風呂に入るように言われて湯船に浸かる。凍えた体にはジーン……ときていた。体の芯まで暖かくなり、体が満たされると次には匂ってきた食欲のほうを満たしたくて仕方なくなる。ぐぅぅぅ……と腹の虫が鳴るのを聞いて、いつまでも湯船に浸かっている気にもなれず、俺は次の欲求を満たすために首まで使っていた風呂から出て手近なバスタオルで素肌を拭っていた。
「あーーー」
どうする?
俺は体を綺麗に拭いてしまってから、今まで着ていた服を着るかどうか迷った。
このままバスタオルを腰に巻いて出るか、今まで着ていた服を着て出るか。ここは迷うところだ……。
「ゔーん…………」
迷う‼ とても迷う‼
出来れば古い服は着たくない。でもバスタオルのままここを出れば、いつでもOKみたいな意思表示になるんじゃないか? と思う。少なくとも俺なら思う。だからどうする? なのだ‼
とは言っても、考えること数十秒。
汚いものは着たくない‼ それが今の俺の考えだから、腰タオルのまま風呂を出てリビングに向かう。
「あのっ」
「ああ、ごめん。新しい下着とか出してなかったね。隣の部屋の引き出し開けて好きなパンツ履いていいよ?」
「…………いいの?」
「いいよ。新しいのが良ければそのままちょっとステイ。今手が離せないからっ!」
「分かった」
新しくても古くても、今のままでいるよりはちゃんと服を着て落ち着きたかった。俺は隣と言われた部屋に入り込むとタンスの引き出しを上から開いて下着を探した。下着は腰を屈めない格好でも出せるように普通の引き出しの一番上の段だった。正直どれでも良かったので適当に引き出すとさっさと身に着ける。そうしてから次の引き出しからパジャマを拝借して一応の体裁を整えると匂いに釣られて彼の元に集う。
「もうすぐだから、そこに座ってて」
「ぁ、はいっ」
指差された食卓テーブルの椅子におとなしく腰かける。もうお腹が空いていて、正直何を食べても美味しいと言えるくらい生唾ものだった。テーブルに置かれた大きめの皿にフライパンからパスタが盛られる。
「生唾の音、凄いね」
「……すみません。もう匂いでヤられてますっ」
「そう言ってもらえると嬉しいな。箸? フォーク?」
「どっちでもっ」
「じゃ、箸で食べようか」
「はいっ」
目の前に熱々のパスタを置かれて水の入ったグラスを置かれると最後に箸を渡されてテーブルに置く。
相手が目の前に腰掛けるのを待つと手を合わせて「いただきます」と言う。それと同時に俺は箸を手に目の前のパスタを口に頬張っていた。
「うううっ……!」
「焦らなくても大丈夫だよ? 落ち着いて。しっかり噛んで食べないと駄目だよ?」
「ううっ」
言われてることは十分わかっている。だから俺はコクコクと頷きながらパスタを頬張ったのだが、むせるほうが際立ってしまい恥ずかしかった。要はそれほど腹が減っていたわけで、パスタの味も旨かったというわけだ。
「ご馳走様でした……」
「……まだお腹へってるよね?」
「まだ入りますけど…………」
「ごめん。足りなかったんだね。ちょっと待ってて」
男は冷蔵庫まで歩くと中を覗き込みながら「どうしようかな……」と首をコキコキさせていた。そして手を伸ばして取り出したのはヨーグルトだった。
「コンフレーク大丈夫?」
「はい」
「じゃ、ヨーグルトとコンフレークにハチミツかけて早めのブレッグファースト食べようか」
「ぁ、はい…」
たぶん今のはジョークだと思う。だけどうまく交わせなかった。でも腹は満たされそうだと言うことで、山盛りにされたコーンフレークにヨーグルトとハチミツをぶっかけて大きなスプーンを手渡された。
「サンキューです」
「じゃ、俺は風呂入って来るから」
「ぁ、はい」
要は風呂に入っている間がラストチャンスだぞって意味だと思うんだけど、あいにくここを出て行っても行くところがないんだからしょうがない。ちょっと体を触られるくらい、ちょっと男と犯るくらい、どうってことないじゃないかと言い聞かせる。
〇
そして山盛りになったコーンフレークがなくなる頃、相手も風呂から出てきたのだった。
「まだお腹減ってる?」
「いえ。さすがにもうお腹いっぱいです」
「それは良かった」
「ごちそうさまでした。突然来てご飯までいただいちゃって……」
「うんまあいいんだけどね。それよりさ、俺のこと疑わなかったの?」
「……いや、疑われるのは俺の方だと思うんだけど……」
「こっちはあんたのことお腹満帆にしてやろうって考えなのに?」
「だって俺、帰るとこないから。酷いことしないって言うんなら別に誰に何されてもいいし……」
「……あのさ、誘った俺が言うのも何だけど、もっと人を疑った方がいいよ? そんなんじゃいつ殺されてもおかしくないよ」
「でもあんたは誘ってくれたし、悪いことしないだろ?」
「交わりはしたいけどね」
「俺、そういうの興味ないんだけど……別に嫌じゃないから」
「ほんとにいいの?」
「うん。ほんとに泊めてくれるんならね」
「いいよ。もちろんだよ。嬉しいな」
「俺も別の意味で嬉しいよ」
本当に無事に泊まれる場所が見つかって良かった。腹も十分満たしたし、後は相手を満足させて寝るだけだ。
手を取られて寝室のベッドまで行くと抱きつかれて横になる。
「いい匂いだね」
「あんたと同じ匂いだよ?」
「ばか。体臭のことだよ」
「臭う?」
「石鹸の匂い。今はね」
「何だ、じゃあ今はまだ何も匂わないだろ?」
「いや、いい匂いだよ」
ふふふっと笑った男は俺の胸に顔を埋めると柔らかくもない胸を弄び始めた。
「んっ」
「感じる?」
「そりゃ……そんな風にされれば……ぁ…んっ」
「ここ、触られるの好き?」
「……されたことないから……分からない」
「じゃあ本当にバージンなんだね」
「まあ……。間違いではないよな」
「女との経験は?」
「ぇ? それ、答えなくちゃ駄目?」
「出来れば知りたいな」
「んっ…んんっ…ん」
舌で体中を舐められながらそんなことを聞かれた。正直どうしようかな……と思ったけど、とりあえず恩義があるから答えた。
「とりあえずあるよ」
「何度も?」
「数回。最初は高校生の頃。そいで次は卒業してから風俗で」
「初めては良かった?」
「訳わかんない間に流れでしてたって感じで……」
「でも射精はしたんだろ?」
「うんまぁ…ぁ…ちょっと、そこ触る?」
「触らなきゃどうするの。今から大きく堅くなって出さないと」
「ぇ、それはあんただけでもいいんだけどな……」
「何、勃起出来ないとか?」
「いや、俺は俺で勝手にやるって言うか……。勝手に勃起して勝手に射精するから……」
だからそこは放っておいて欲しいんだけど、っと言う目で見つめると即座に却下された。
「それはNG。俺だけが勝手に楽しむっのてフェアーじゃないよね」
「でもさ……」
「俺が誘ったんだから俺の好きにさせてよ」
「なら。まあいいけど……」
それって本当にいいのかな……などと考えていると両手で頬を挟まれて優しくキスをされた。
「んっ……」
「どう?」
「どうって?」
「俺の唇は柔らかい?」
「うん……」
男にしては柔らかいんじゃないかと思った。
「だったらあんたも俺に返してきてよ」
「どういう風に?」
「触り返す。キスし返す。色々して欲しいな」
「ああ」
そういうことか。だいたいが不慣れ。しかもされる側ってのは初めての経験でどうしていいのか分からなかった。要はくんずほぐれつやり合いましょうって合図だと思った。だったらいつまでもマグロでいるのも悪いかと俺も攻撃を開始する。脚を相手の脚に絡ませて執拗に肌を密着させる。さっき相手がしてくれたように相手の肌を舌で味わうように舐めると、男はちょっと気持ち良さそうに声を漏らした。
身長も体格も同じくらいで、オマケにかわいさも同じくらい。もし隣り合って座ったらいい感じの絵になるんじゃないかとも思った。
「あっ…ああっ…ぁ」
「んっ…んん」
「汗かくね」
「それ、今言う?」
「うん。今、いい感じだから……ぁ……」
「まあ。いい感じって言えばい感じか」
二人とも同じように勃起してたし、もう少しでイきそうだった。たぶん相手は俺に入れたいんだろうけど……どうかな?
「俺に入れるんじゃないの?」
「うん。でも両方一回出してから」
「そうなんだ」
「だから、ね?」
一緒にイこう、と目で誘われて素直に頷く。
「ぁ……ぁ……ぁぁっ……ぁ…………」
「んっ……んん……ん」
向かい合ってお互いのモノをしごき合って擦り合わせると我慢も限界となり相手の腹に射精する。
「ぁぁぁっ! ああっ‼」
「ぁっ! ぁっ! ぁっ……!」
続いてソレを使って後ろを解されてあっという間に挿入されていた。
「えっ?」
「細い内に入れると負担が少ないだろ?」
「あっ、うんまぁ……」
そんなものなのか……と感心している内にしっかりと腰を掴まれて抜き差しを開始される。
「ぁっ! ぁぁっ! ぁっ……!」
「どう? 俺の。感じてる?」
「うっ……うんっ! すっ……ごく、いいっ!」
「それは良かった」
実際に中のモノがちょうどいい位置に当たっている。抜き差しされて奥まで突っ込まれモノをしごかれると、もうメロメロだった。
それから開脚したまま縛られて後ろに偽物男根を入れられながらの口での奉仕もそんなに嫌じゃなかった。
「舌転がしがうまいね」
「ぅ……ぅぅっ……ぅ……」
「それに縄もよく似合う」
「ぅぅっ……」
「ちんちんはどう? 勃起してる?」
「ぅぅ」
「そっか。じゃ、おしゃぶり続けながらご褒美に足コキしてあげるね?」
「ぅぅっ」
男は俺の勃起したモノを脚で押し潰すように接してきた。
「ぅぅぅっ! ぅっ……!」
「ギュウギュウされてるのに感じちゃうなんて相当Мだよね。お漏らしも体験してみる?」
「ぅぅぅっ」
それは恥ずかしい!
精液を垂れ流し、相手のモノをしゃぶりながらもそんなことを考えてしまう。
俺は相手のモノを満足させてから仰向けに転がされて開脚を固定するように縛られて放置された。
「これからもここにいたい?」
「……うん」
「こんな辱めを受けるのに?」
「ぅ……うん、それは…………俺、こんなことしか出来ないし…………」
「……俺を楽しませてくれる?」
「うん。俺で良ければ……」
「こういうの、好き?」
「分かんないけど、嫌じゃない」
「じゃ、これからもよろしく」
「…………俺、ここにいられる?」
「うん。とりあえず飼ったげる。いい犬拾ったよ」
それは良かった。
「…………わんっ」
返事と同時に俺は勃起したモノも震わせて喜びを表したのだった。
とりあえず居場所確保。これから俺はちょっとこの男に媚びを売ってみようと思ってる。
終わり
タイトル「誘われ桃野君」
20200629
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