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第1話

「ぇ……」  初めてその光景を見た時は正直ショックだった。 見たのは日向。そして見られたのは月島だった。  少しだけ開いた特別教室の準備室。月島は床に膝をついて突っ立っている教師の前にいた。そして男のアレを苦しげにしゃぶっていたのだった。 だから日向はビックリして思わず小さな悲鳴をあげてしまっていた。そしてその小さな小さな悲鳴を聞きつけてしまったのも月島だった。モノをしゃぶりながらも日向を確認して目を見開いていたのだ。日向も同様に目を見開いてその光景を見ていた。  しばらくしゃぶって射精されたモノを飲み込んで事が終わる。教師は彼の頭を撫でると口に数枚のお札をくわえさせ、そそくさと部屋を出て行った。 部屋にひとりだけになった月島は、遠くの日向を厳しい顔で見つめながら口のお札を取り去ると荒々しく手招きをしてきた。 「ぇ……」  これって呼ばれてるってことだよな……?  仕方なく月島に近づくと怒った顔で迫られた。 「見た?」 「何してたの?」 「見てたでしょ。お金儲けだよ」 「どうして……」 「色々欲しいものとかあるからね」 「でもあんなことっ」 「僕も好きだからいいんだよっ」 「……そういうこと……好きなの? 好きだったの?」  月島は部活一筋でこんなことに関心があるとは思っていなかった。だから凄く驚いているし、ビックリもしている。 「月島……」 「皆に言う?」 「いや、言いやしないけど……」 「そう。それは安心した。でも口止め料は必要だよね」 「何、その口止め料って」 「さっきのアイツにしてたのと同じこと、興味あるんじゃない?」 「ぇ、何言ってるの」 「今まだ時間あるからしてやるよ」 「ぇ、でもっ」 「いいからっ」  バンッ! と壁に背中を押しつけられると屈まれて腰を捕まれる。股間のチャックを口で下げられると手でモノを取り出されて有無を言わさず口に含まれた。 「あっ……!」 「うっ……んっ。んんっ、んっ……」  片手で腰を掴み、片手で袋を揉まれながらモノをしゃぶられると、とんでもない快楽が襲ってきた。 「やっ……。ああっ……、あっ。あああっ」 「うっ」  日向は、あっという間に果てていた。 「早いね。早漏?」 「ばっ……!」 「お前の味、案外好きだからこれからもしゃぶってやるよ」  トンッ! と身を離されて見下ろされる。 「……」  日向は取り出され、しゃぶられたままのモノを晒しながら何も言えずにただただ口を開けていたのだった。口を拭って部屋を出て行く月島を尻餅をついたまま見送る。 「どうしよう……」  されてしまったのは置いておいて、こんなことを彼がしているのを誰かに相談したほうがいのではないかと思う。だけどそれを相談してしまったら彼の立場はどうなるんだろう……とも思ってしまう。 ハッ! として萎えたモノをしまい込むとキョロキョロと辺りを見回す。そして誰にも見られていないのを確認してから慌ててそこを後にしたのだった。 ● 「ぁっ…ぁっ…ぁっ…」 「少し黙ってろよっ…ぅ…ぅぅっ」  言われた日向は思わず自分で自分の口を塞いだ。  今、勉強を見てもらう名目で日向は月島の家に来ていた。それは部活が終わってからのお泊まりで、誰も疑う者などいない状況だった。そしてふたりはベッドの上で彼が上になって絡まり合っていた。 日向のモノは彼によって勃起させられ今彼の中に挿入されようとしている。 「お前のモノはナリよりデカいからっ…ぁ…ぁぁ……ぁ」 「ぅぅぅ」 「黙れ」 「ぅぅっ」 「あああっ」  騎乗位で自分の尻に突き刺すように日向のモノを出し入れにかかる。騎乗位なので自分が沈み込めば一気に突き刺さる格好になって月島の身がブルブルと震える。それを気遣う間は日向にはなかった。ギュウギュウと締め付けられる感じに悲鳴ではない快感を覚える。 「ぁ……」  何これっ、月島の中……熱いっ。それに締め付けが半端ないってか……! 「んんんっ……んっ……んっ」  日向のモノを根本まで入れた月島がゆっくりと動き出し眉を潜める。自分で自分のモノを握りしめながら沈めた腰を円を描くように回し始めた。 「ぁっ……ぁ……ぁ……」 「気持ち……いいか…………?」 「うっ……うんっ……!」 「そうかっ。それは良かった…………。こ……んなことしてるんだからっ……お前が気持ち良くなかったら泣くに泣けないよっ……っ……ぅぅ……ぅ」  そう嘘ぶきながらも動くのをやめはしない。月島は腰を回すのに慣れると次には自ら身をバウンドさせて快楽を味わっているようだった。日向はそれに付き合っているだけのような感じで、彼が自らのモノをしごくのを喘ぎながらも目に焼き付けていた。  月島のこんな姿……知ってるのは俺だけだよな?  そうであって欲しい。そんな気持ちが大きかったが、本当のところはそうでもないという思いもあった。  でなきゃこんなに慣れてるわけないし……、俺がこんなに気持ちいいわけないし……。 「あっ……ぁ……ぁ…………」 「黙れ日向っ」 「ぅっ……ぅんっ……んっ……んっ…………!」  前後左右に腰を振り、ガンガン腰を打ち付けられて、どうしようもなくなった日向は彼の中に勢いよく弾けた。 「んっ! んんっ!!」 「ああっ……! ぁっ! ぁぁっ…………」  中で弾けられて、それに感じてしまった月島が自分の手の中で弾ける。 「ふぅぅ…………」 「ぅっ」  お互いに射精し終わるとズルリッとモノを引き抜かれる。日向は「邪魔っ」と言われて横に転がされると狭いベッドでふたりして横たわった。 「気持ち良かっただろ?」 「ぁ、うん…………」  でもいざ終わってしまうと呆気なくて言葉をなくす。気だるげな月島を横目で見ながら、また日向の素朴な疑問が持ち上がった。 「月島は、こういうの……好きなの?」 「日向は嫌いなのか?」 「嫌いじゃないけど……」 「ないけど何」 「出来れば俺だけで発散して欲しいって言うか……」 「……はっ? 何、それ。それって独占欲とか言うやつ?」 「どうなのか分かんないけど。でも違う人とお金もらってするような行為じゃないと思う」 「そんなの俺の勝手じゃん」 「そりゃ、そうだけど……」 「だったら日向ひとりにしたらどう? ちゃんと俺と付き合う?」 「俺……は、いいけど……」 「じゃあ、骨の髄までしゃぶらせてもらおうかな」 「ぅ、うん……」  それってどういう意味だろう……とちょっと恐い気もしたが、それで彼があんなことしないのならばいいと思った。 「俺、一日二回くらいしたいから、ちゃんと勃ってくれよ」 「う、うん……。たぶん大丈夫……」  その点では心配なかったのだが、気持ちの面ではとても複雑だった。  月島は俺のこと別に好きってわけじゃないんだよな? 単に「する相手」として必要なんだよな?  納得させるようにそう言い聞かせてみるが、これでいいのかどうかは分からないままだ。 ●  そんなモヤモヤした時間がしばらく続いた時、校内で変な噂が立ち始めた。それは誰かが援交しているらしいと言うものだ。 写真があるとか動画があるとか、今はまだそれさえも出回らない程度の噂話なのだが、次にはもう少し詳しく言われ始める。内容は誰かと男子学生のことらしいと囁かれる。さすがにそこまで言われると、次には学年とか言われ出すんじゃないかと思うのだが、それは月島も同様で、考えるように腕組みをして爪を噛んでいた。 「月島」 「なに」 「あの時の相手って誰? いつも同じ人なの?」 「僕のことを知っているのは数少ないよ。そんなにいつでも相手出来ないし」 「そりゃそうだけど……」 「日向は動かないで。これは僕の問題なんだから、僕が解決するよ」 「いいけど……」  でも不安で仕方なかった。少なくとも相手は快く思ってないのは分かる。分かるし、解決しないのも分かる。だけどどうしていいのか分からない。  どうしたらいいんだ……。 「日向、この頃妙に憂いを帯びているように見えるんだけど、どうした?」 「ぇ、俺変ですか……?」 「うん。十分変だ」 「……」 「何かあったのか? 俺に出来ることなら」 「あ、の……。やっぱりいいです」 「そんこと言うなよ」 「でも……」  声をかけてきたのは部活の部長である太一だった。真っ直ぐで正義感の強い太一は日向の異変を敏感に感じ取ると、問うてきたのだ。 誰かに相談しかったた日向は、いったんは躊躇したのだが、「やっぱりここで相談しないと!」と意を決して全てを吐露した。 「月島が?」 「……はい。だから俺、どうにかしないとと思って……。でも俺が出来るのには限界があるって言うか……」 「それは分かる。分かるけど、日向は自分の身を犠牲にして大丈夫か?」 「犠牲? 犠牲になんかしてませんよ? 俺、月島好きだし……」 「本当に?」 「嫌いじゃないってのは、好きってことですよね?」 「うんまあ……。まあそういう考え方もあるわな」  噂については校内に知れ渡っているのだが、それがスガではないかと噂されて憤慨しているところだったのだ。でもまさかそれがこんな近くに原因がいたとは。 「参ったな……」 「すみませんっ」 「いいんだ、いいんだ。よく話してくれたな。後は俺たちに任せとけ」  全てを話してしまうと気持ちが軽くなった。日向はふたりと別れると自分の教室に帰るために渡り廊下を歩いていた。  後は月島にこのことを話して……っと。  思っていると、遠くの校舎で月島と教師がもみ合っているのが見えた。 「ぁっ!」  それを見た日向は一目散に走っていた。そして開いている引き戸から突入すると相手を突き飛ばし怒鳴っていた。 「月島はもうそんなことしないって俺に言った! だからもうお前の言うことは聞かない!」 「……お前……何を言ってるんだ。私はっ」 「みんな知ってる! 月島は渡さない。言うこと聞かないんなら全部バラす!」 「バラすだと?!」  食ってかかってきそうになるところに後ろから太一とスガが入ってきた。スガは携帯で動画を録画しながら厳しい顔をしていた。太一も教師が逆らえば臨戦態勢状態だ。 教師は美術を教えている男でみんな接点はなかった。が、月島は相手から声をかけられて金欲しさからか言い寄られたのか、そんな関係を続けたらしい。 「俺らも無事に部活続けたいんで、これ以上噂流すのやめてもらえませんか?」  太一が拳を握りながら怒った顔でそんなことを言う。スガは相変わらず厳しい顔をしたまま動画を回していた。多勢に無勢で言うことを聞かないわけにはいかない雰囲気に男が首を縦に振る。 「分かった。分かったから、もうこれ以上は……」 「いいですよ。でもまた同じことしたら……。相手が月島じゃなかったらいい、とか思っていませんよね?」 「思ってないっ、思ってないっ」 「お金払えばちゃんと処理してくれる店もあるでしょ? 犯罪行為はやめてください」 「分かった。分かったからもういいか?」 「……ぇぇ」  男が四つん這いになりながら足早に部屋から逃げ出て行った。それを見届けてから太一が改めて月島に向かい合う。 「それから月島。お前もだ」 「…………」 「こんなことになるって分かってたら、してないだろ?」 「……」 「分からないのか? お前は自分を卑下しただけじゃなく、日向を弄んだんだよ」 「…………ぇ?」 「心配してる日向を、お前は弄んだんだ」 「そ、んなことはっ…………!」 「気持ち良くさせてやったんだからいいじゃないか、って? 冗談じゃないぞ。お前は日向の心を何ひとつ考えてない。付き合うなら、もっとちゃんとした形を取れ」 「…………」  日向と僕が、付き合う……? 日向が……僕を好き? だったら僕は………………?  意外にもそう言われて驚いていたのは月島だった。だから日向は焦った。焦って両手を広げて太一と月島の間に割って入る。 「月島は、俺のことなんて何とも思ってませんよ?! 俺はっ! 月島にあんなことして欲しくかっただけで…………」 「でも、好きなんだろ?」 「嫌いじゃない、けど…………」 「嫌いじゃないってことは?」 「すっ……好き…………?」 「だろ?」 「ぁ、はぃ…………」 「…………」  それが答えなんだと今気づかされる。 「日向は……僕のことを好きなのか? あんなことされても好きなのか?」 「……あれってそんなにいけないことなの? 好きだったらすることなんじゃないの? 好きじゃなきゃ、しちゃいけないものなんじゃないの?」 「それは……そうだけど…………」 「だったらいいじゃん。俺、月島好きだし、月島だって俺のこと嫌いじゃないんだろ?」 「ま、まぁ……」 「ふたりがそう思ってるんなら別にいいんじゃないの?」  ニコニコしながら言うスガにその場が和む。 「じゃあいいか」 「いいだろ」 「それじゃ、これで一件落着。月島、もういい加減なことするなよ? 俺たちが迷惑するから」  部長の太一にんなそことを言われて素直に頷く。今回のことは徐々に終息していくだろうと踏んで皆足掻かないとその場で決める。 ●  ふたりきりになった部屋で、どちらからともなく急に意識し合う。 「……」 「……」 「謝らないからなっ」  ぶっきらぼうに月島がボソッと言う。それに対して日向の返事は直球だった。 「何を謝るんだ。俺はこれからもよろしくだぞ」 「……それでいいのか?」 「いいだろっ」 「影山じゃなくて、いいのか」 「……何故ここであいつが出てくるんだ」 「コンビだろ」 「それはバレーの時のこと。私生活での接点はまったくないっ!」 「僕もそんなに接点ないはずだけど」 「いや。月島とは少なくとももうチンコの関係があるっ!」  ふんっ! と胸を張られた月島は、最初は驚いて、それから馬鹿にするような笑いをした。 「お前は馬鹿だな」 「んだとっ!? お前、馬鹿っていうヤツが馬鹿なんだぞっ!?」 「そういうのいいから」 「じゃあ何なんだよっ!」 「……いいのかよ」 「何が?」 「本当に……僕でいいのかよ」 「いいも何も……もう始まっちゃってるって俺は思ってるんだけど……」 「そうか……」 「うん」 「後悔しないか?」 「何を後悔するんだよっ。俺たちはもう」 「もういいっ。それ以上言うな。黙れっ」  言われながら抱きしめられて首もとに唇が当たる。 「!」 「これから、本当に本気になるからな」 「ぇ……」  言われた日向は心底ドキッとしたのだった。 終わり タイトル「最初から始まっちゃってる恋」 20200806

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