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外伝 花精の甘露1

『私言いましたよね? 仕事が終わったらすぐに連絡するようにって、再三言いましたよね?』  壁に映し出された小柄で華奢な女性が、ゆったりと話しかける。花のかんばせに少女のように浮かべた笑みは穏やかで優しげだが、ラウを詰る言葉には迫力があった。  ディノクルーガーの森を経って早五日。ラウはようやく仲介者であるミレイアに連絡することを思い出した。  さも今仕事を終えたかのように連絡を入れたのだが、そこは手練れなミレイア・トイフェルだ。すでにラウが十日以上も前に蟲退治を終えていることを知っていた。  仕事をする上で、始まりと終わりの連絡をすることは必要最低限の義務だ。ミレイアはそれをラウに懇々と言い聞かせてきたのだが。  少女のように可憐ながらも妖艶さを滲ませる美しい顔に、うっすらと青筋が登る。 「……悪かった」  かの人に何を言っても言い負かされることは目に見えているので、ラウはおとなしく頭を下げた。この場を凌げば問題ない。  喉元過ぎればなんとやら、でラウはこのことに関してあまり学習しない。  表面だけの反省に、ミレイアの顔色がいよいよ悪くなった。  すうっとミレイアが息を吸ったその時。 「ご、ごめんなさい! 僕が悪いんです……! 僕が早く行こうってラウに言ったから……」  エリファレットがミレイアの視界にぴこりと入り込んだ。  銀の耳がへたりと垂れて、翠玉の瞳が真摯に謝罪を告げる。 『まぁ、エリファレット。今回は大変でしたね。元気そうな姿が見れて私も安心しました』 「あ、ありがとうございます……」 『でもエリファレット、これは私とラウの仕事上の取り決めなのですよ。何事も躾はきちんとしないといけないと思いませんか?』  にっこりと妖艶に笑う彼女は美しく。ラウは早々に白旗を上げた。 「ミレイア、悪かった」  万が一このままエリファレットに被弾したらたまらない。  エリファレットの肩を抱いて避難させ、ラウが慇懃に謝罪する。それを確認して、ミレイアはようやく溜飲を下げた。

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