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俺は最低の男だ。

 ぼく、男娼をやめるんだ。君がそう言った時の満面の笑顔がずっと忘れられない。今でも。だから君を殺す。  俺が男娼でいたのは君の近くにいられたからだ。俺が生きていたのは君が近くに感じられたからだ。君と一緒なら地獄の底までもいくつもりで、それでいていつかはおわりの時がくるのを望むと同時に恐れながら、君と同じ私娼窟で俺は客を取り続けた。  自分がどんな客を抱こうが抱かれようがそんなことはどうでも良かった。できるだけ君の傍にいたかった。いつか終わりがくるのをわかっていながら。そしてついにきた終末を俺は受け入れられなかった。    君の柔らかい少しくせ毛の入った黒髪のマッシュルームカット、女性のように長いまつ毛、妙に彫りの深い鼻筋……盲腸の手術跡、瑞々しく肉づきのよい尻……君の身体ならいくらでも見ていられる触っていられる思い浮かべていられる。  その肉体がこうして俺の目の前で血反吐を吐いて床に真っ赤な花弁を散らすの見ていると、俺の人生が収斂していくのを全身で感じる。好きだ。愛している。何度も何度も、このために手に入れたナイフで君を刺して切り刻む。  赤黒い欠片が君からこぼれおちる。綺麗だ。君の大きな瞳はいつもよりもおおきく見開かれ、魂が肉体から去る時まで驚愕の色を浮かべながら俺を見ていた。

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