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【第8話】ヘンタイメガネの変態たる所以(2)
地震かと思ったのは、長身のメガネが玄関横の壁を叩いた音だった。
「あ、おかえりー。どした、幾ヶ瀬?」
室内から有夏チャンがヒョイと顔を出す。
お出迎えというわけでもなさそうだが、鈍感な有夏チャンといえども音が気になったのだろう。
「ランチ上がりにいちいち帰って来んなってんだろが、幾ヶ瀬。仕込みを仕込めよ」
手にはPSvita。
色素の薄い髪は、襟足がだらしなく伸びてきている。
変な柄のTシャツと短パンといういつもの部屋着で、有夏に変わった様子はない。
日本語が少々おかしいが、そこはスルー。
「仕込みなんてとっくに終わらせてるよ」
幾ヶ瀬の口調が冷たい。
足音荒く室内に入ってきた幾ヶ瀬、これはかなり珍しい。
怒っているのか?
いつもは結構ナヨナヨして有夏サマのご機嫌をとっているコイツが。
この2人、ベッドじゃ全然逆なんだけど、普段は有夏チャンの方が口調も態度も男らしいよな。
自分のこと「有夏」って名前呼びしてる時点で、色々アウトではあるけど。
最近思うのは、有夏チャンがワガママでだらしなくてクソニートだから、ヘンタイメガネが仕方なく面倒をみてるのかと思いきや、意外とヘンタイメガネの方が有夏チャンに依存して付きまとってるみたいに見える。
で。
そのヘンタイメガネだが、有夏チャンの前に立つとこう言い放った。
「有夏のスマホ、解約してきたからねっ」
「は?」
隣りの部屋からこっそり覗いてるこっちも「はぁ?」である。
この前の幾ヶ瀬の休みに2階角部屋──有夏チャンのゴミ屋敷を大掃除して、3ヶ月ほど所在不明だったらしいスマホを、ようやっと発掘したんじゃなかったのかよ。
(ノゾキ常習犯のアタシは知ってるんだよ!)
ヘンタイメガネだって「これで、帰ります連絡ができるねっ」とクネクネしながら喜んでたじゃねぇか。
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