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【第9話】かきまぜる行為(2)

「あ、有夏? ごめん、言い過ぎた。でも有夏が見てるって……」 「幾ヶ瀬しつこい。そんなに言わなくても有夏、自分で分かってるし」 「有夏?」 「料理できないし、片付けもできないし、掃除もできないし……」 「もしもし、有夏さん?」  できないことはまだまだあるとばかりに、指を折って数えている様子。 「洗濯もしたくないし、できればダラダラ暮らしていたいし、永遠にゲームしてたいし……」  それから有夏は突然、顔をあげた。 「幾ヶ瀬は有夏のどこがそんなにいいんだよ。やっぱ顔?」 「やっぱ顔って聞いちゃう、そのふてぶてしい所は結構好きだけどね」  苦笑するしかないといった様子で、幾ヶ瀬は最後にもう一度鍋をかき回した。  そんな彼の風呂上がりの首筋に、有夏の腕が回される。 「有夏のナカは?」 「えっ?」  動揺からお玉を鍋の中に落とした幾ヶ瀬を、笑みを浮かべて見上げる。 「有夏のナカも、かき混ぜたい?」 「い、いいの?」  例のネカフェ騒動以来、少しでも触れようものなら拒まれ、殴られるという罰を被っている幾ヶ瀬は、これだけで腰に巻いたタオルが落ち着かなく揺れる有り様。  上ずった声で「本当にいいの?」なんて繰り返す様は、ちょっと情けないものがある。 「どうかなー。そこまで期待されるとなー」  有夏の唇の端が吊り上がる。 「幾ヶ瀬ぇ……」  甘えた声。  餌に吸い寄せられる犬のように幾ヶ瀬の顔が近付いて来る。  荒い呼吸を近くで感じて、有夏は勝ち誇ったように頬を紅潮させた。  唇が触れる──その一瞬前。 「残念ながら腹がへったな」  有夏は身体を引いた。

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