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【第9話】かきまぜる行為(4)
そう言って嘆息する彼を一睨みする有夏。
「今は鋼錬が読みたいんだよ」
「ハガレン? 何?」
「何って……高校ん時貸しただろ。これは名作だって! 幾ヶ瀬だって良かったって言ってたし」
「ああ、鋼の何とかだっけ。そうだよ。有夏、持ってんじゃん。何、実家に置いてきたの? 取りに帰ればいいじゃない」
「おいおい、知ってんだろ。有夏ん家は狭いんだよ。置いてくるわけないじゃん。本なんて置いてたら姉ちゃんらにソッコー売られるわ」
彼がブルリと身を震わせたのは「姉ちゃんら」を思いだした為か。
「んじゃ、ここに持ってきてるってこと? 有夏の部屋のどこかにあるんでしょ。駄目だよ、探そうともしないでまた新しく買うなんて……痛っ!」
有夏の平手が幾ヶ瀬の側頭部を張る。
見ると有夏、腹立ちを抑えきれないという風にこめかみを震わせていた。
「覚えてねぇのかよ。幾ヶ瀬がっ、古紙に出したんだろが!! 有夏の知らない間に!」
「え、そうだっけ?」
「あの傑作を……!」
「ご、ごめんってエリカ」
「エリカって誰だよっ!!」
怒声が響く。
幾ヶ瀬が狼狽えたように「ごめん」と繰り返した。
「エルリック兄弟と有夏がごっちゃになっちゃった」
「……しっかり覚えてるみたいじゃねぇの。鋼錬の内容」
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