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【第29話】秘密の撮影会(1)

「有夏……」  名前を囁かれ、顔を近付けられる。  そうすると目を閉じて、少し顎を傾けて待つのが常になっていた。  姉たちの余りもののように付けられたこの名前は、昔から嫌いだった。  可愛らしい名前だと揶揄いの種になったから。  でも、今は違う。  好きな相手に呼ばれる名の、何と愛おしいこと。  唇を優しく座れ、あとは愛撫に身体をまかせる──はずなのだが。  そう。夕食も入浴も済ませた。幾ヶ瀬は明日は休みである。  確実に、そういう流れの──ハズなのだが?  近付く息づかいがちっとも感じられないことに、訝しんだ有夏。  ちらり。  薄目を開けた瞬間のこと。

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