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【第29話】秘密の撮影会(4)

 いつもならばそのまま冒頭の続きに突入して、揉めごとなど忘れてしまうところだが、今夜の有夏は違った。  一瞬の隙をついて平手で幾ヶ瀬の頬を張る。 「アデッ? ひどいっ!」  パンッと小気味良い音が鳴ると同時に、さすがに怯んだ相手の手からスマホを取り上げてやった。  待ち受けが目に入り、ゾッとする。 「何これっ!」  日付とアナログ時計の表示の下に、半目をとじて口を突き出した自分の間抜け面を見たからだ。 「ちょっと、有夏。返してよ」  スマホをひょいと取り上げて袖口で画面を拭く幾ヶ瀬に、悪びれた様子はない。  張られた頬が赤くなっているが、さしたるダメージもなさそうだ。 「おま……、それ、さっき! やっぱり写真とって……消せよっ!」  案の定というか、当然というか。  幾ヶ瀬は首を振る。

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