308 / 359
【第29話】秘密の撮影会(4)
いつもならばそのまま冒頭の続きに突入して、揉めごとなど忘れてしまうところだが、今夜の有夏は違った。
一瞬の隙をついて平手で幾ヶ瀬の頬を張る。
「アデッ? ひどいっ!」
パンッと小気味良い音が鳴ると同時に、さすがに怯んだ相手の手からスマホを取り上げてやった。
待ち受けが目に入り、ゾッとする。
「何これっ!」
日付とアナログ時計の表示の下に、半目をとじて口を突き出した自分の間抜け面を見たからだ。
「ちょっと、有夏。返してよ」
スマホをひょいと取り上げて袖口で画面を拭く幾ヶ瀬に、悪びれた様子はない。
張られた頬が赤くなっているが、さしたるダメージもなさそうだ。
「おま……、それ、さっき! やっぱり写真とって……消せよっ!」
案の定というか、当然というか。
幾ヶ瀬は首を振る。
ともだちにシェアしよう!