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冬SS (1/3)

 ひらりと目の前を過る白い結晶。 「雪か……」  エルベルトは宮殿の前で足を止め、空を見上げた。夕暮れ時の厚い雲からそれは音もなく舞い降りる。  どうりで冷え込むと思った。  宮殿に入り、出迎える部下の中からソフィアを探した。 「おかえりなさいませ、陛下」 「ルカは?」 「ルカ様なら図書室に」  またか、と呟くとソフィアは苦笑した。  番になってひと月あまり。エルベルトが公務に就いている間、ルカはほとんどの時間を図書室で過ごしていた。その必要はないといくら言っても、ルカは国王の番に相応しいだけの知識を得たいと言い張り、聞く耳をもたない。  あれほど頑なに弟を護り、自分を拒み続けた男だ。分かってはいたが、やはり筋金入りの頑固者だ。  しかし図書室に入っても明るく燃える暖炉の前には誰もいなかった。机や壁に並ぶ本棚にも目を走らすが、ルカの姿はない。  ふと、庭に続く扉の向こうを見ると、深まる闇の中で佇む一人の後ろ姿があった。細身で華奢にさえ見えるが、凛と背筋を伸ばし、寒さなど感じていないかのように白く塗り替えられる庭を眺めている。 「何をしている、ルカ」  扉を開けて声をかける。ルカは驚いた様子もなく振り向いた。 「おかえり、エルベルト」  目を細め、柔らかく口元を綻ばせる姿を見る度、愛おしさで胸が苦しいほどいっぱいになる。  このかけがえのない存在を失いかけたと思うと、あの凍てつくような恐怖がよみがえる。そのせいか、ルカを引き寄せる腕に思わぬ力が入ってしまう。 「上着も着ずに外に出るな。風邪をひく」  コートの中にルカを抱え込み、強く抱き締めた。 「大袈裟だな、この程度で」  からかい交じりに言いつつも、ルカは大人しく腕の中に収まった。 「……どうせ、あんたがすぐ来るって思ってたから」  言葉の内容とは裏腹に、伏せた瞼はどこか不安げだった。本当に来るかどうか、確信がなかったかのように。  また余計なことばかり考えて、と溜息が出る。 「真っ先にお前を探すに決まってるだろう」  そう強く言うと、新緑のような綺麗な眸がわずかに見開いた。  その目元にたまらず口付けを落とす。 「そんなことを疑うな、ルカ」 「ん……」  ルカは安心したように微笑み、背中にそっと腕を回してきた。

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