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第18話

「そういえば彼、外科医だっけ?」 黒瀬は悠をプレイコーナーで遊ばせているのを眺めながら、急に思い出したように言った。 周りは外国人観光客が何人かいるだけで、シーズン終盤のせいかあまり混雑していなかった。 「そうだよ。それが?」 嫌な予感がした。 窓からはジャンボジェット機が見え、大きな機体にトーイングカーが数台集まっていた。 外は晴天でまだ暑そうで、働く車や航空会社に感謝をした。 「……確か、僕の親戚にも同じ外科医がいた気がしてね。」 黒瀬は横で首を傾げながら考えていた。 思い当たる人物がいたが、気のせいだと頭の中で打ち消した。 黒瀬の爽やかな笑顔と図々しい態度と強引さを兼ね備えた外科医を一人知っていた。 「………へぇ、交友関係が広いね。」 悠が遊んでいるのを眺めると、楽しそうに他の友達とまだ遊んでいた。 そろそろ飛行機に搭乗しなければならない。 「………あ、黒木君だ!そうそう、母方の親戚なんだけど、小さい頃よく遊んでだんだ。確か彼も外科医になったて言ってたな。」 黒瀬は掌を叩きながら、すっきりした顔になった。その横顔は確かに黒木によく似ていた。 単純な自分の好みのルーツを知ったようで、とても嫌な気分になった。 「……そうなんだ。交友関係が広くてなによりで。」 そう呟いて、自分の好みの狭さを思い知った。 確かによく考えると、黒木は蒼より黒瀬になんとなく似ていたような気がした。 「そうそう、よく似てるって言われたなぁ」 「………そうかな。」 黒木は相変わらず元気で、精力的に働いているのは確かだった。 蒼には話そうと思いつつ、少ない連絡で話せずにいたが、黒木の誘いは絶えることなく、まだ来ていた。遠距離の蒼より連絡は数倍多く、ほぼ毎日電話がきては聞き流して誤魔化す毎日を送っている。蒼が嫉妬するので、誘いは断り、相手も分かっているのか暇つぶしのように電話をかけてくる感じだった。 「黒木君に今度連絡してみようかな。」 黒瀬は明るい声で言いながら、悠を呼ぶと朗らかに笑って近づいてきた。 もうすぐ搭乗時間だ。そろそろ飛行機に乗らなければならない。 ボストンまでフライトは長い。 あと少しで蒼に会える。早く逢いたい。 逢って沢山話をして、沢山触れて抱き合いたいと悠の顔を見て思った。

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