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⑧極めてみようと思います! ─雷─⑧

 満員電車でチビな俺を庇うメロテクを、いかんなく披露してくるヤリ迅。  最近行ってねぇから懐かしさすら覚える、迅の家と香水が混じった匂いを間近で嗅がされて呼吸困難不可避だった。  心臓のドキドキで意識は朦朧としてくるし、ちょっと離れろと見上げたら男らしい喉仏に瞬殺される。  カレカノごっこが始まってから毎朝このメロテクを披露されてたってのに、少し前までの俺はむしろ迅の胸板利用して立ったまま寝てたんだぜ?  この匂い嗅いでも何とも思わなかった。 どこのブランドの何て名前の香水つけてんの?とか、聞いても分かんねぇ横文字を二日に一回は質問して「何だそれ」って笑ってた。  密着してたってへっちゃらで、俺もこのくらい逞しく育ちたかったぜ……ぴえんって胸板にほっぺたスリスリまでしてたぞ。  無意識の俺、恐れ知らずもいいとこ。 今はあんなの絶対ムリ。 秒で息絶える。  学校ではクラスが違うからホッとしてた……んだけど、休み時間の度に俺んとこ来てはダチを威嚇して去って行く、黒豹の縄張り意識的なもんを感じて俺までビビった。  あれは何だったんだ。  放課後、逃げようとした俺を先回りしてた迅に捕まって秘密基地に放られた。  いつもみてぇに太ももに乗せられて、早速おやつタイムに入ろうとしてっけど、俺昨日から食欲無えんだってば。  てか、ムード・シチュエーションがどうとか言ってた迅が、俺の部屋から無断で奪って行ったもんはどうなった。  いかがわしそうだってことしか分かんねぇ代物が何個も入ってて、それを当然のように強奪された所有者の立場よ。 「──迅!! すっかりうっかり忘れてたけど、俺のおもちゃ持って帰ったろ! 返せ!」 「ああ、あれ束バッキー野郎から貰ったんだろ?」 「そうだよ! 返せ!」 「イヤ」 「じゃあしょうがねぇか。 ……ってなるかよ!! スグ返せ! 今スグ返せぇぇッッ!!」 「うるせぇな。 童貞男子が使いこなせる代物じゃねぇだろ、あんなの」 「俺あんま中身見てねぇんだよ! 何が入ってた!?」  怒ってる俺の口ン中に、アーモンドチョコをポイッと放り込まれた。  美味いよ、美味い。 美味いけど!  童貞男子なの茶化された上に、絶妙に誤魔化されてる気がするぞ!! 「えー何? 何の話?」  俺らの到着から遅れること五分、放課後は要注意のエロピアスが半笑いで登場した。  トイレでの迅とのアレコレは最後の部分しか聞いてなかったらしいから、気まずさは無え。 「翼! 迅の野郎ヒデェんだよ! 俺のおもちゃ盗った!」 「はぁ? 迅、雷にゃんにおもちゃ返しなさい」 「そうだ! 返せ返せ!」 「おもちゃねぇ……」  畜生〜〜ッ、翼にチクってもダメだったか。  背後で不敵に笑ってる気配がする。 でも振り向けねぇ。  迅の上に座ってるだけでケツが緊張してんのに、振り向いたら迅のモデル面を超至近距離で拝むことになんだろ。  そ、そそそそ、そんなのムリッッ、また熱出るッッ。 「中身何だったかなー。 まずア○ル用ローションとコンドームだろ? あとはア○ル拡張用のプラグ……アレ細かったから初心者用だろうな。 あぁ、あとイチジク浣腸が何個か入ってた」 「…………ッッ!?」 「え、おもちゃってソッチ?」 「……ッッ、迅!!」  なんだ、なんだ、なんだ!?  ア○ルって単語出過ぎじゃね!?って、そりゃ指一本から始めましょう的なこと言ってたしそういうエチエチグッズだってのは分かるんだけどさ!  最後のイチジク浣腸が謎!  エチエチグッズの単語聞いただけでドキドキが加速してきた。  雷ギャル化と平行してやんなきゃなんねぇ、ア○ル開発(?)。  先輩はとりあえず動画観ろって言ってた。 しかもそれはご丁寧に、初級、中級、上級の三部作だった。  俺は初心者だからまず初級編観ろって言われて、昨日そのつもりだったのに熱出しちまって。  迅のピンク色の悪夢にうなされてたから、俺はまだア○ル知識も童貞。  三個目のアーモンドチョコをほお張ってもぐもぐしながら、なるべく迅の胸板に背中付けねぇように気を付けた。  ……腹筋鍛えられていいぜ。 「雷にゃん、ソレ自分で準備したの? てことは迅と……」 「翼、俺まだ言ってねぇ」 「はっ? 迅、それマジ? 昨日言うって言ってたじゃん。 何してんの」 「そうなんだけど、……緊張して」 「ダサッ」 「うるせぇ」 「でもなんか、お前も人の子だったんだなーってちょっとウルッとしてるわ、今」 「俺も」 「自分で感動してんのかよ。 それは超ハードめなガチダサ案件だぞ」 「……感動ってか、こういう感情が俺にもあったんだなーって感じ。 気味が悪りぃよ、俺自身」 「なんで?」 「言いてぇことがスッと出てこねぇんだよ。 こんなちんちくりん相手に」  ケツ緊張させて腹に力入れてた俺の後ろ髪を、いきなりツンと引っ張られる。  俺には分かんねぇ迅と翼の会話そっちのけで、心臓ドキバク中で気が遠くなってたとこを不意打ちされた。  油断してたから、見事に胸板まっしぐら。 おまけに腹に回ってきた手が俺をホールドして、逃げらんなくなった。 「んッッ? おいヤリ迅!! ちんちくりんって俺のこと言ってんな!?」 「お前以外に誰が居る? 雷にゃん」 「う! うぅッッ、眩しい!!」 「あ? 逆光?」  振り向いて目をやられた俺は、元気でおバカな雷にゃんで言い返すしかなかった。  迅の憎たらしいイケメン面にドキドキしてるなんて、自分でもキモいと思った。  あったかさと迅の匂いが近ぇ。  クラクラする。  こんなの、今こそ、……恥ずか死ぬ。

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