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⑯仕返し……!? ─雷─③
「お前ら、俺が来るって分かっててイチャイチャしてんのか? てかむしろ見せつけてる?」
「ハッ……!」
翼、来てたのか!?
やれやれ顔でヒョウ柄のラグの上に荷物を置いた翼が、いつ秘密基地に来たのか全然気が付かなかった。
俺ってば、迅のナデナデが気持ち良すぎてゴロにゃん状態で飛んじまってたらしい。
てか、こんな恥ずかしいとこ見せつけるわけねぇじゃんッ。
不意打ちで覗き見されてポポポポッと顔が熱くなった俺の反応こそ、正常だ。強靭な鉄骨ハートが魅力の迅さんはというと、ハハッとイケメンに笑ってやがる。
「いや完全にお前の存在忘れてた」
「おぉッ? お、俺は忘れてねぇぞ! ちょびっと異空間に飛んじまってただけで……!」
「異空間~~?」
正直者な迅に同意を求められても、ここは一応ダチのメンツを保ちたい……と慌てて取り繕ったってのに、俺のセリフに食い付くってどゆ事?
舌ピアスをカチカチ鳴らして、得意のニヤけ面で近付いてくるダチが怖え。
クラスマッチで体動かしまくってアドレナナントカってやつが出てんのか、目が血走ってるような……。
「頼むからここでおっぱじめたりするなよ。見つけたら俺も混ざるからな」
「俺と雷にゃんがおっぱじめたら、翼は静かに回れ右が礼儀だろ」
「嫌だね! 俺は雷にゃんのセカンドヴァージンをまだ狙っ……グフッ!」
聞いたことない単語に「ほえっ?」と首を傾げた俺の脇を、迅の右腕が素早く横切った。
何にイラついたんだ、迅。
華麗な右ストレートが翼の鳩尾にヒットして、チャラい茶髪をゆらゆらさせながら翼は前屈みになった。
「お、おい、迅ッ! いきなり鳩尾は……ッ」
「痛ってぇな……この野郎……。殴ったな? なぁ迅、マジで俺のこと殴りやがったな?」
「いいや? 俺が本気で殴ったらお前の体はあっちまで吹っ飛んでる」
「ンだよ……かわいい翼ジョークじゃん。マジに受け取んなよ」
「マジだったろ」
「いやいや、……まぁ、……いやいや、……まぁ……」
翼の不敵な笑みが、さっきまで甘々彼ピッピだった迅のツラに般若を宿させる。
しかしな、俺にはさっぱり分かんねぇんだけど。
迅のヤツ、何にキレたんだ?
瞬時に手が出るほどだぜ?
俺が「ほえっ?」とクエスチョンマーク生んだあの単語かなぁ?
油断するともう一発食らわせちまいそうな迅を止めつつ、前に回り込んで般若手前のイケメンを見上げた。
「……なぁなぁ、迅」
「ん?」
あッ……♡ イケメン……♡
俺を見下ろす迅は、翼を見る目とは明らかに違って甘々だった。
優越感浸ってろ?ってイケボで囁かれた直後だから、モロに浸れちゃいますな。
「セカンドヴァージンって何?」
「あぁ、コイツが言ってんのとホントの意味は違うから気にするな。雷にゃんは知らなくていいこと……」
「んん〜〜?? ホントの意味? じゃあ翼が言ってんのはどういう意味なんだ?」
「さぁ迅、どうする! マジの回答をするのか、誤魔化すのか! さぁどっち!」
「てめぇ……ふざけるな。もう一発入れねぇと分かんねぇみたいだな?」
「ヤダッ! 暴力はよして!」
「じゃあ黙ってろ」
翼……お前まだ鳩尾押さえてんじゃん……平気なツラしてふざけてっけど、実は相当痛てぇんだろ?
迅は翼の発言で機嫌が急降下したんだから、今は黙っとくのがお利口さんだと俺でも分かるぞ。
「翼が言ってた意味は雷にゃんには刺激が強えから、ホントの意味だけ教えてやるよ」
「えぇ〜〜」
「えぇ〜〜」
だから翼は黙ってろっての!
これ以上迅を怒らせたら、俺にもとばっちりがくるかもしんないじゃんッ。
翼のことを殺意のある目で睨んではいるけど、俺は頭ナデナデされてっからまだ安心してられるが……。
「セカンドヴァージンってのは、初めてセックスしてからの年数が空いてる人のこと。ヴァージンの女は処女膜っつーのがあってだな、……」
「あーッ! あーッ!! いいです、もう聞きたくない!」
うわわわわ……ッッ!!
迅の口からそんなの聞きたくねぇよ!!
あ〜ビックリした!!
翼が言ってた意味とホントの意味は違うって言われても、俺はたぶん迅から懇切丁寧な説明聞いたって理解出来ねぇだろうからな!
思いっきり背伸びして、手のひらで迅の口を塞ぐ。
「結局そうなるんじゃん」
「だ、だって……迅が他の人とエッチしてるの想像しちまうから……ッ! ぴえんってなるもん〜!! てかもうぴえん〜〜!!」
「はいはい、ヨシヨシ。ったく、翼が余計な事言うから雷にゃんがぴえんじゃん」
「えっ、俺のせい!? 迅がこと細かく説明すっから雷にゃんが……」
「あ?」
「…………いえ。なんでもございません。ぴえん」
「俺の方がぴえんぴえんなんだけど」って、鳩尾に打撃痕が残ってるっぽい翼の言葉が……めちゃめちゃ重かった。
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