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飲み屋のトイレで インテリ攻めと 天然受けが キメセクする話

「一緒に来た友達はどこか行っちゃったの?」 後ろから低い声が掛けられる。  振り向くと、店に入って来た時に目立っていた背の高い男が笑いかけていた。ついさっまで、後ろの席でいい雰囲気で他の男といたような気がするのだけど。 「ひとりなら、隣座ってもいい?」 断られるとは思っていないしぐさで、隣に座る。 「友達はどうしたの?」  一緒に来た一真は好みの男がいたようで、一杯飲んだだけで「行ってくる♪戻って来なかったらごめんね」と行ってしまった。 「友達はあっち。置いてけぼりされちゃった」 俺はちらりと一真の方を見て、肩をすくませる。 「で、君は?誰か待ち合わせ?誰もいないなら、俺なんかどう?」 「いいよ、おにいさん、一緒に飲も」  俺は背が高くて賢そうな眼鏡に品の良いスーツ、スーツと同じ品のいい声の男に笑いかけた。 「来たばっかりで、ごめん、ちょっと‥」 隣で飲んでいた男が席を立つ。  まだ一緒に飲んで10分位なんだけど‥赤い顔で立ち上がるのもしんどそう。呂律も‥あやしいみたいだ。  お酒弱いのかな?  男はそのままトイレに入っていった。  お酒、隣に来る前にたくさん飲んでたのかな?俺は特に不思議に思う事もなく、席を立った男が戻ってくるのを待つ。  その隙を伺っていたのか一真が寄って来る。 「いい雰囲気だったじゃん」  人目を引く綺麗だけど少し毒のある笑顔で一真がにやりとする。 「うん。なんかいい人みたい」 「また‥」 仕方ないな、という風にため息をつくと耳に痛い言葉を続ける。 「ボケボケしてないでちゃんと名前くらい聞いとけよ。そんなんじゃまた、乗り気じゃないままやり逃げされるよ」 「うん、大丈夫」  自分でも大丈夫か?と思うけれど、心配されるのも忍びないので軽く返事をする。 「ほんとかよ。気を付けろよ」 それには、へらっと笑って返した。  実際、常連が多く客層の悪くない店のはずなのに、そういう相手に当たることが多い。一晩限りとか、割り切りとかそういうのを否定する気はないのだけど、自分には合わないな、と思う。ちゃんと好きになって抱き合いたい。  理想は、そうなのだけど‥。 「俺、今日はあっちの人と一緒に帰るから‥」 一真はコソッと耳打ちして、ちらりと一緒に飲んでいた人の方を見る。  上手くやっているようで羨ましい限りだ。 「‥そっちの人、遅くない?トイレで誰かに横取りされてたりして」 イヒヒと悪戯っ子みたいに笑って一真は『あっちの人』の所に戻ってしまった。  言われてみたら少し遅いかもしれない。  顔赤かったし、フラフラしてたし、にわかに心配になる。ここのトイレ、広くてきれいだしね‥。何人か前、声を掛けられた男にトイレで悪戯された事を思い出す。 「ちょっと、ここの人見てきますね」  バーテンダーに声を掛けて席を立つ。  トイレでの『行為』は禁止にはなっているけど、いつ見ても店の広さの割に広くて綺麗なトイレに苦笑する。やっぱ、ヤッてくださいって言ってるよな、このトイレ。  声を掛けようとして、呼びかける名前が分からない事に気づく。 「すみませーん。大丈夫ですかぁ?」  ガタっと奥のトイレで音がする。使っているのは奥だけみたいだから、誰かと一緒かな?だったらお邪魔かな‥ヤダな‥と思いながら、ドアをノックする。 「‥だいじょ‥ぶ。へいき‥」 吐息と一緒に、さっきの人の声がする。  他に物音がしないので、他に人はいないと思うんだけど‥わかんないんだよな。 「ひとりです?具合悪そうだけど‥」 誰かいたら悪いな、と思いながら続ける。  また、カタと音がして、カチャリと鍵の開く音、それから苦しそうな吐息が続くが、出てくる気配はない。恐る恐る中を覗くと、一緒に飲んでいた彼がが苦しそうにトイレに座っている。  少し見ただけでもわかる、なんか変。 「大丈夫ですか?酔った‥んじゃないですよね?」 確認する俺の言葉に頷いて返す。 「多分、キミと、飲む前‥一緒にいた子に‥何か入れられたみたいで‥」 ハァ‥、と苦し気な吐息と共に声を絞り出す。その声が、なんか‥色っぽい。  目の前の光景と、苦し気な声にクラリと酔いが回ったような気がする。引きの悪い俺の相手の中には、そういう、薬を勝手に使う奴もいて‥その苦しさ、辛さは知っている。そして、目の前の彼が何をしたいのかも、知ってる。  身体が勝手に動く気がする。急激に酔いが回ってフワリと現実感が無くなったようだ。俺は個室に入ると、後ろ手に鍵を閉める。  彼の前にしゃがみ膝に手をかけると、ビクリとした彼の顔を見ないままに言った。 「俺で、よければ‥」 多分驚いたであろう彼の反応は無視して、長い脚の間に手を伸ばす。 「‥っ。まって‥」 彼の抑止も聞こえないふりをする。  ベルトを外すのは後にして手っ取り早くチャックを下し、熱く主張する部分を探り出す。ためらいはないふりをして下から舐めあげると、その手触りのよいものを口に含んだ。  こんな事をして、彼に止められるのが恐い。途中で止めろと言われたら息が止まってしまうかも。ぼんやりと靄がかかったような頭の隅では、これじゃいつも俺が相手していた奴らと同じじゃないか、と嘲笑う声がする。それでも、止められなかった。  舐めて、吸ってそれを愛撫しているのか、それとも俺の口の中を愛撫しているのかわからなくなりながら、彼のベルトを外す。  もう彼も抵抗はしない。耐えるようにそれでも優しく俺の頭を掴んでいる。 「う゛‥っぁ‥っ」 時折漏れる声に、官能を直撃されている気がする。ぐっと頭を掴む手に力が入り、口の中のそれも力を増す。そんな事が堪らなくなり、激しく彼を吸い上げる。  彼が達した瞬間、自分も達したような気がする。  初めて彼の顔を見つめる。まだ去らない雄の表情に、張りつめた自分の股間が痛い。その後ろは、もっと‥  口の中のものを飲み下さないように気を付けながら、自分のベルトを外す。目の前の彼は、達しても力を失わないまま、荒い息を吐いている。  ズボンを脱ぎ棄て、苦いそれを手のひらに出すと自分で後ろに手を伸ばす。クチュリと音をたてながら、早く、と急いて後ろをほぐす。そして、もう一度彼の熱を口内に迎え入れながら、彼の協力を得て彼のズボンもずらす。  頭の中の冷静な部分が、スーツの汚れを気にしている。なのに、止まらない、衝動。 「乗る、ね‥」 そう断ると、彼の膝の上に乗りあげる。「重いかな」と思ったけれど、キスがしたい。全部で彼を感じたい。  一度達して少し余裕が出たのか、大きな熱い手が腰を支える。手が触れただけで堪らず「ぁっ‥」と声が漏れる。 「声、我慢して‥」 入り口に熱い熱を感じるのに、 「我慢‥できない‥か、も‥」 性急に荒々しく繋がろうとする下半身に反して優しい唇がそっと触れる。 「‥んんっ‥っ」 優しく、強引に口の中を犯す舌によだれと吐息が溢れる。  やわらかい唇、優しいキスに全身がぐずぐずと崩れていく気がする。泣きたくなる。  キスに夢中になっているうちに「入った‥」と思うと、グッと突き上げられる。  ――もう駄目だ、と思った。  けれど口も下も侵されて伝えることもできない。ビクビクと震えるだけの身体。必死でたくましい背中に抱き着く。  リズミカルに、でも時折乱れて突き上げられ、粘液の音と抑えきれない自分の声だけが響く。  足の裏からゾワリとする感覚がして、涙が堪えきれなくなる。  苦しい、きもちいい、もう駄目、もっと‥色んな相反する色んな感覚でぐちゃぐちゃになる。  もう、‥  気が付いたときは、まだたくましい彼の身体にすがっていた。頭が重い、身体も重い‥どこもかしこもぐちゃぐちゃで、現実じゃない気がする。  でも、すっと頭の芯が冴えていく。  ‥やっちゃった‥しかも、史上最悪に‥  途中からはよく覚えていない、けど明らかに誘ったのは自分で、積極的だったのも自分だ。  ――どうしよう‥  これから先も、この現状も‥どっちも頭を抱える事しかできない。  気まずく身じろぐと、先に冷静になっていたっぽい彼がぎゅっと抱きしめる腕に力を入れた。 「ごめん、こんなつもりじゃなかったんだけど‥」  言いながら、唇にキスを落とす。熱は去ったけれどやわらかさはそのままの、 優しいキス。  抱き合ったままため息をつき、唇と同じく優しい胸にそっと甘える。 「お詫びとお礼はまたするとして‥、今日は送らせてくれる?」 優しく髪に触れながら掛けられる声に「お礼なんて‥悪いのは俺だし」と思ったけれど、甘えさせてくれる腕に今だけは甘えたい。 「とりあえず、どうしよっか‥」  脱ぎ捨てられたズボンはともかく、上半身は二人ともぐちゃぐちゃで、店に戻るのも難しそうだ。  当然だけれど彼も気付いていた惨状に、二人して途方に暮れた。

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